米国ではすでに一大潮流となっている「カスタマーサクセス」という考え方。提供した製品やサービスによって顧客が獲得する成功を第一とし、製品/サービスを提供した側が、契約後も積極的に関与・伴走していくというものだ。最近、日本でもサブスクリプションモデルの製品/サービスを提供しているIT事業者を中心に、このカスタマーサクセスを取り入れようとする動きが活発化している。まさに、日本のカスタマーサクセスは夜明けを迎えようとしているのだ。
本企画は「カスタマーサクセスの夜明け」と題し、日本においてカスタマーサクセスへの取り組みを始めている企業とその立役者を取り上げ、カスタマーサクセスへの取り組み方や、具体的な施策、うまく推進するための秘訣などを連載形式で紹介していく。第1回は、カスタマーサクセスという概念を提唱したセールスフォース・ドットコム。同社のカスタマーサクセス統括本部サクセスマネジメント部 部長 北川博一氏へのインタビューを通じて、カスタマーサクセスの“今”を明らかにする。
目次
20年近く前から、カスタマーサクセス。私たちのDNAにカスタマーサクセスがある
――「カスタマーサクセス」は、貴社から発信された言葉かと思います。いつ頃からカスタマーサクセスへの取り組みを始められたのでしょうか?
北川氏: カスタマーサクセスという概念を唱え始めたのは、2000年初頭だと思います。1999年の創業ですから、創業時からすでにカスタマーサクセスという考え方がありました。
カスタマーサクセスという部署ができたのは、グローバルでは2003年頃、日本では2005年頃です。Salesforceのビジネスモデルは、クラウドを通じて必要なITシステムを必要なだけ利用していただき、そのサービスに利用料を支払っていただくサブスクリプションモデル。お客さまに継続的にシステムをご利用いただかないとビジネスが成り立たない。このビジネスモデルから、継続的に満足してシステムを利活用いただき、お客さまの業務改善や成功を支援していく「カスタマーサクセス」という発想が生まれたのです。企業として大切にしている4つの価値の1つにカスタマーサクセスが掲げられているように、カスタマーサクセスは私たちのDNAになっていると言っていいと思います。
自社の成功ではなく顧客の成功のために伴走する。それが、カスタマーサクセス
――貴社では、具体的にどのように顧客の声を聞き、また顧客の目標達成に向け伴走しているのでしょうか?
北川氏: もちろん営業や私たちサクセスマネージャーが訪問してリアルな声をおうかがいし、内容ごとにしっかりフォローします。代表的な活動の1つとしては、Salesforceを使って成果が上がっているかビジネスレビューを行っています。プロジェクトは現在こういう状況で、目標に対しての達成率はこういう状況であることの報告や、今後の課題や解決策などをまとめたレポートを担当の方と一緒に作成し、レビューにも同席して上層部の方々へプレゼンテーションします。お客さまと一緒に活動する、その1つがこのビジネスレビューです。
また、弊社では、お客さまのSalesforceの利用状況を分析するツールがあります。この話をするとよく聞かれるのですが、お客さま自身の保有しているデータはお客さまの所有物ですので、私たちは決して見ることはできません。Salesforceへのログイン率や、データ変更率、Chatter(社内SNS)利用率など、あくまでシステムログとして記録されているものを数値化して見ています。弊社には、世界15万社の活用状況が蓄積されているので、これらの数値がどうなったかによって兆候が見え、今後どういう状態になっていくかがある程度分かります。それらを確認しながら、兆候が見えたお客さまに対して、その原因を探ります。
例えばログイン率が低いお客さまに対しては、設定の問題であれば、設定のノウハウをすぐに提供します。ログインはしているけど、利用率が低いお客さまに対しては、Salesforceを定着させるためのサポートを行います。みんな使っているのにビジネス効果が上がっていないというお客さまに対しては、業務改善の方法をご提案するケースもあります。お客さまがSalesforceをフル活用していただくという面でも、お客さまに伴走しています。
時には先回りして顧客への提案も――営業に付属せず、自ら売り上げを獲得する部署として独立するカスタマーサクセス部門
――顧客の利活用を促進する観点では、多くの企業に「カスタマーサポート」という仕組みが用意されています。そことの違いは?
北川氏: カスタマーサポートは、どちらかといえば、お客さまにシステム的な障害が起きて、それを確実に解決する部隊。こちらも非常に重要な役割を担っているのですが、私たちは、お客さまにSalesforceを使って何をやりたいのかをしっかり聞いて、利活用を進めるための提案もしながら、継続的に支援していくことが役割です。
利用状況を見ながら、お客さまが気付く前に提案を行うケースも少なくありません。また組織的に従来のカスタマーサポートは、営業に付属する部署という企業が多いと思うのですが、Salesforceでは、カスタマーサクセス統括本部として独立しています。先ほど申し上げたように、お客さまに伴走し成功のためのコンサルティングも行うので、しっかり売り上げを上げる部署という位置付けです。それは、経営としてカスタマーサクセスに取り組むという意志表示であるともいえます。
――日本では、貴社のようにサブスクリプションモデルでITシステムを提供している事業者を中心に、カスタマーサクセスの重要性が盛んに叫ばれています。カスタマーサクセスは、サブスクリプションのビジネスモデルの事業者だけに必要な概念なのでしょうか?
北川氏: カスタマーサクセスへの取り組みを始めるきっかけは、サブスクリプションというビジネスモデルですが、どんなビジネスモデルであれ、顧客の成功を一緒に追い求める活動は、私たちのビジネスに必要不可欠なものであるというのが、弊社の考え方です。
今は第四次産業革命の真只中で、世の中がいろんなデバイスでつながって、お客さまは必要な製品やサービスを簡単に探し比較できる時代。その中で、他社との差別化や長くお付き合いをさせていただくことを考えたときに、お客さまとどうコミュニケーションをとって、どう心の琴線に触れていくか、どう満足度を向上させていくかというカスタマーサクセスの活動が、とても重要になります。これは、どんなビジネスモデルでも変わらないことだと思います。
後編:世界中のユーザーが意見を交わし、製品改善を提案―― セールスフォース・ドットコムが膨大な顧客の声を拾い上げる仕組みを明かす に続きます
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