米国で一大潮流となっている「カスタマーサクセス」。製品・サービス提供後も、顧客企業の成功を第一として積極的に伴走を続けるカスタマーサクセスを取り入れようとする動きが日本でも活発化し始めている。

 「カスタマーサクセスの夜明け」と題し、カスタマーサクセスに取り組む企業とその立役者を連載形式で取り上げ、具体的な施策やうまく推進するための秘訣などを紹介する本企画。第1回はカスタマーサクセス第一人者のセールスフォース・ドットコムにおけるカスタマーサクセスへの取り組みを紹介したが、第2回の本稿では、全世界の顧客の声を1つのプラットフォームに集めるといった、セールスフォース・ドットコムの一歩進んだカスタマーサクセスの取り組みを紹介する。

前編:セールスフォース・ドットコムが唱えるカスタマーサクセスとは? 20年実践中のパイオニア企業が大切にしていること

ユーザーが新しい機能のアイデアを提案できるコミュニティー

――貴社には大企業から中堅/中小企業まで膨大な数におよぶ顧客がいらっしゃると思います。その声をくみとるために、工夫されていることはありますか?

北川氏:前回ご紹介したリアルなコミュニケーションに加え、セールスフォース・ドットコムでは、顧客の声を集める2つの仕組みを構築しています。1つは、ユーザーコミュニティー。お客さま同士が自由にディスカッションできる場所です。もう1つは、グローバル共通の「アイデアエクスチェンジ」という仕組みで、Salesforceを使っているお客さまが「こういう機能を入れてほしい」と、オンライン上で公開提案できる独自のプラットフォームです。

アイデアエクスチェンジの例。ユーザーが機能追加提案を投稿すると、それに賛同するユーザーがコメントやポイントを付与できる。ポイントが高くなれば改修項目として追加されやすい。ちなみに日本語で投稿すると、セールスフォース・ドットコムのスタッフが英語に翻訳してくれるという

――ユーザーコミュニティーがある企業はいくつかありますが、ユーザーが機能追加を提案できる仕組みがあるとは、なかなか画期的ですね

北川氏:弊社独自の取り組みかと思いますが、公開で提案されたアイデアに対して、他のお客さまは投票もできます。それで、一定数の賛成が集まると、年3回のバージョンアップの中でリリースできるよう、実際に機能開発を開始します。このサイトでは、「こういうアイデアが開発されリリースされた」という報告も行っており、オープンで透明性のある仕組みとして、ユーザーの方々に気がねなく活用いただいています。

 このアイデアエクスチェンジがあるから、私たちも、今どんな機能が足りていないのか、どんな機能が求められているのか、顧客の声を広く具体的に把握できるのです。

――一方で、貴社のコミュニティーはユーザー同士がとても活発に意見交換されている印象があります。運営側がコミュニティーの活性化のために何か実施されていることはあるのでしょうか?

北川氏: アイデアエクスチェンジでいえば、実際に機能開発まで行っているということが、大きいと思います。顧客の声をきちんと受け止めて開発、リリースという結果を出すことが、「私も言ってみよう」という動機づけになっていると感じています。

 また、こういったコミュニティーでは、「オープン」と「広く」ということを意識しています。古い体質の会社だとどうしても取引金額の大きなお客さまの声が強くなりがちですが、Salesforceのユーザーさまは皆、平等。上下関係なく同じように発言権と投票権を持っていますし、大きなお客さまの意見も、小さなお客さまの声も、全て同じです。

 ユーザーコミュニティーについては、運営自体は参加者の皆さまが主体となり、私たちはサポートに徹しています。1つだけ、私たちの施策を挙げるとすれば、コミュニティーで活躍されているユーザーさまを「Trailblazer(トレイルブレイザー・先駆者)」と呼ばせていただいております。ユーザーコミュニティーで、質問へ積極的に回答し、率先して他のお客さまを助けてくれた方や、自社で成果を上げて、そのノウハウをコミュニティーに還元してくださった方などをTrailblazerとして賞賛し、特に多大な貢献をされている方はMVPとして表彰しております。そのTrailblazerの方々が自主的に、コミュニティーで回答をしてくれています。ユーザーご自身がコミュニティーを動かすようになっていることが、コミュニティーが活性化したポイントだと思います。

――ユーザー1人の声が届く実感を持てることが、Salesforceのファンが増える秘訣なのでしょうね。カスタマーサクセスにおける施策がいくつも成功している貴社ですが、これからカスタマーサクセスへ取り組もうとしている、あるいは取り組んでいるがうまくいっていないという企業に向けて、アドバイスをください

北川氏: これは持論になりますが、自社製品を使っているお客さまとちゃんと向き合ってみてください、ということでしょうか。当社にはアイデアエクスチェンジというプラットフォームもありますが、まずは営業や他者を通して声を聞くのではなく、お客さまのもとへ訪問して、自社の製品やサービスのことをどう思っていて、どうしようと思っているのか、これを聞くことが、カスタマーサクセスの第一歩だと思います。

 カスタマーサクセスというと、頭でっかちになって、ユーザーコミュニティーなどの仕組みやシステム作りを性急に進める会社も多いのですが、基本は個々のお客さまの状況をしっかりと理解することだと思います。それが汎用化できるのであれば、仕組みにできる。まずは、お客さまと向き合って、伴走して、解決へ導く。その繰り返しが、カスタマーサクセスを実践するということです。

カスタマーサクセスマネージャーはスポーツジムのパーソナルトレーナーのような存在

――どんな人材要件を持つ人が、カスタマーサクセスのサクセスマネージャーに向いているのでしょうか?

北川氏: 世の中でカスタマーサクセスという言葉が盛んに飛び交うようになって、「CS」という略語が登場すると、カスタマーサクセスとカスタマーサポートを同じものとして認識している傾向があるのですが、必要なスキルは違います。お客さまとしっかり向き合ってヒアリングしますし、何回も訪問して打ち合わせを行ったりして、伴走しますので、例えていうなら、スポーツジムのパーソナルトレーナーのような存在。技術的なスキルよりも、コミュニケーション能力の高い人が活躍できる舞台だと感じています。

 これも持論になりますが、カスタマーサポートをやっていたという人より、むしろ営業をやっていたという人が向いている役割ではないでしょうか。


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