アマゾン(Amazon)のECサイトで低価格帯の商品が売れに売れているという。
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アマゾン(Amazon)のECサイトで、安価な商品の売り上げが急増している模様だ。
最近開かれた全社ミーティングの席で、小売部門を統括するワールドワイド・アマゾン・ストアーズのダグ・ヘリントン最高経営責任者(CEO)は、ヘルスケア、ビューティー、グローサリーなど生活必需品は「他の取扱い商品と比較して1.5倍のペースで売り上げを伸ばしている」と語った。
Business Insider編集部が独自ルート経由で入手したミーティングの記録から判明した。
同氏の説明によれば、注文した商品が迅速に到着するようになるほど、消費者の支出額と頻度は増加する傾向があり、昨今の売上増も一義的にはその文脈から説明がつく。実際、売れている生活必需品の50%以上は当日もしくは翌日配送の対象商品だという。
「配送時間の短縮は、食料品や日用品ビジネスにとって猛烈な追い風となっています。ほとんどの家庭が毎週のように購入する低価格帯の生活必需品については特にそうです」
アマゾンはここしばらく、倉庫や物流ネットワークの地域化(=地域ごとに自己完結)に重点投資してきた。そして、配送時間の短縮と同時に、配送の高速化に伴うコストの低減も目指してきた。
結果として(高速配送に伴う)コストを低減できたことで、アマゾンは利幅の薄くなりがちな低価格帯の商品を提供しやすくなった。
配送コストが嵩み利益率が低い商品を「CRaP(Can't Realize a Profit)」と呼んで敬遠してきた同社の過去の戦略を踏まえれば、大きな方針転換だ。
ここ数年、劇的なコスト削減と大規模なレイオフを経て過去最高益を更新するに至った(=利益体質を強化した)ことが、低価格帯を手厚く扱うアプローチを正当化している面もある。
また、そうした変化が生まれたことで、低価格商品を武器に急速な成長を遂げるテム(Temu)やシーイン(Shein)ら中国発の競合に対するアマゾンの競争力は高まる可能性がある。
配送時間の短縮が生む「効用」
ヘリントン氏は冒頭触れた全社ミーティングで、倉庫を中心とする物流ネットワークそれぞれがカバーする地域を狭めるよう再設計した結果、配送時間の短縮とコスト削減が実現したと語った。
できるだけ顧客に近い倉庫から出荷するよう最適化を図ったことで、配送まで一連の受注処理を高速化できたという。
結果として、アマゾンは注文当たりの「サービス提供コスト」を2年連続で削減することに成功、有料プライム会員向けの配送時間に関しても過去最短を更新した。
アマゾンのアンディ・ジャシーCEOは10月、同社がここ数年「狂気の沙汰と言えるほど(maniacal)」サービス提供コストの低減に躍起になって取り組んできた結果、本当の意味での競争優位性を獲得し、低価格帯の商品に妥当な利益を乗せて販売できるようになったと語った。
「長年社内で使われてきたこんな言い回しがあります。価格を下げるだけなら簡単にできても、価格を引き下げる余裕を持つのははるかに難しいのだ、と」
上記の発言はアナリスト向けの決算説明会でジャシー氏が口にしたもの。同氏はその場で低価格帯商品の売上増は「本当にポジティブな」動きだと強調し、その理由として、配送速度の短縮に基礎を置いていることを挙げた。
ジャシー氏によれば、配送速度の短縮は得てして顧客ロイヤルティや注文頻度、購入金額の上昇につながるという。
また、アマゾンのブライアン・オルサフスキー最高財務責任者(CFO)は、生活必需品売り上げの急速な増加を、消費者にとってアマゾンの利用が毎日の買い物習慣の一部になりつつある実情を示唆するポジティブな兆候と位置づけた。
米投資銀行エバーコア(Evercore)のマーク・マヘイニー氏は最近の顧客向けメールで、上記のような変化の重要性を強調した上で、その背景として、最もアマゾンへのロイヤルティの高い顧客グループであるプライム会員の成長が鈍化している現状を挙げる。
「低価格帯商品の売上増は利益率の観点から見るとネガティブな面もありますが、とは言え、買い物客のロイヤルティ、買い物の頻度、買い物の数量を押し上げてくれます。
米国におけるプライム会員世帯数が飽和に近づいているのだとすれば、それは重要なことです」
そうした状況を踏まえて、アマゾンは配送ネットワークの地域化による配送時間の短縮を進める取り組みになおいっそう力を入れている。
ヘリントン氏は前出の全社ミーティングで、梱包スピードをさらに向上させる新たな倉庫向けロボティクスに投資していることを明らかにした。また、地方の配送ネットワークとドローンを利用した空中配送サービスの拡大が続いていることも強調している。