ホンダは年内に中国市場向けに開発したEVを投入する。
Reuter
中国政府が経済対策として新エネルギー車(EV、PHVなど)への買い替えに補助金を導入し、中国の自動車市場が活気づいている。一方でその恩恵を受けられていないのが、ガソリン車を主力とする合弁メーカーだ。かつて中国市場で販売台数トップだった独フォルクスワーゲンや、日系メーカーの中でいち早く足場を築いたホンダが大きく数字を落としているが、同社のEV工場が武漢で稼働を始めるなど、反転に向けた動きも起きている。
中国トップだった独VWの退潮
2024年も4分の3が過ぎた。自動車メーカーの勝ち組、負け組も見えてきたが、特に注目されているのは、世界的なメーカーの凋落ぶりだ。
まず独フォルクスワーゲン(VW)。同社はBYDに抜かれるまで中国市場で長らくトップシェアを維持しており、2018年のシェアは18%もあった。ここ2~3年は現地勢の猛追を受けて後退しているが、2023年も14%のシェアを確保し、世界販売の3分の1を中国で稼いでいる。
VWの1~9月の中国での販売台数は、前年同期比10.2%減の205万7000台。直近の7~9月は同15%減の71万1500台で、減少幅が拡大している。
フォルクスワーゲングループの2024年1~9月の地域別販売台数
フォルクスワーゲンの公開資料より
VWは2024年の世界販売計画を950万台としていたが、2回下方修正し900万台に引き下げた。中国市場の不振を受け、2024年1~6月の営業利益は同11.4%減少した。
9月下旬には上海汽車集団と合弁で運営する南京工場の生産を停止し、人員を削減すると報道された。報道によるとVWの過去のリストラは生産ラインの従事者にとどまっていたが、今回は輸入車を取り扱うVW中国本部の管理職も対象に含まれているという。
VW中国はゴルフやビートルなどを輸入して中国で販売している。2018年の輸入台数は11万だったが、2023年は1万2800台に急減した。
日本では日系メーカーの中国市場での凋落が度々報じられるが、2010年代まで中国ではVWが圧倒的に強かった。中国の大衆車と言えばVWのイメージが強かっただけに、衝撃はより大きい。
補助金効果で市場は拡大
2010年代、中国の道路を走るタクシーの多くはVWだったが、今は相当数がBYDに取って代わられている。
Reuter
米ゼネラルモーターズ(GV)も不振を極め、1~9月の販売台数は同19%減の124万台。7~9月は下げ幅を拡大し、同2割減の42万6000台だった。ただ、同期間の販売台数のうちEVとPHVの比率が52.7%を占め、初めてガソリン車を超えるなど、外資の中ではGMの新エネルギー車シフトは進んでいる方だ。
中国市場で外資企業の業績が悪化すると、「景気低迷の影響」と言われることが多い。だが、中国汽車流通協会によると9月の乗用車の販売台数は前年同期比4.5%増え、210万9000台。1~9月も同2.2%増の1557万4000台と、2024年は成長が続いている。
今年春に経済対策として自動車の買い替えを促す政府の補助金が導入され、各地方政府も追随したことが背景にある。ガソリン車への買い替えも補助金の対象だが、EV、PHVの購入の方が手厚い補助金を受けられるため、市場成長の恩恵を一手に受けている
同協会がまとめた1~9月の自動車販売台数トップ5は順にBYD(同30.9%増の246万6600台)、吉利汽車(同25.3%増の117万6300台)、VWと第一汽車の合弁である一汽大衆(同11.7%減の115万9000台)、長安汽車(同5.5%減の93万9100台)、奇瑞汽車(同62.6%増の83万3500台)。合弁の一汽大衆と国有企業の長安汽車が苦戦する一方、新エネ車シフトが鮮明な民営3社の好調ぶりがうかがえる。
ホンダ、3カ月連続の4割減
日系大手3社はどうだろうか。1~9月の販売台数はトヨタが同10.4%減の124万600台、ホンダが同29.3%減の58万8018台、日産が同9.1%減の49万6998台だった。日系3社の販売台数は6カ月連続で前年割れしているが、減少幅には濃淡がある。
ホンダは7月から3カ月連続で減少幅が40%を超えた一方、日産は主力セダン「シルフィ」の販売を強化し9月は同3.8%減で踏みとどまった。
ただ、本連載でも度々紹介しているように、中国では身を切る値下げ競争が続いており、販売台数が増えても利益につながっているとは限らない。
ホンダは2035年に中国市場で販売する新車を全てEVにする方針を掲げ、北米で人気のアキュラの生産販売も2023年に打ち切った。
現地で開発したEVシリーズ「燁(イエ)」を年内に発売予定で、ホンダにとって初めてとなる東風ホンダのEV専用工場が今月、武漢で稼働を始めた。
マツダも最近、合弁を組む長安汽車と共同開発し、主力だったセダン「マツダ6」の後継車種と位置づける「EZ-6」の予約販売を始めた。現地価格は16万元~20万元(1元=20円で計算、約320万円~400万円)で、EVとPHVを投入する。
マツダはマツダ6の後継車種と位置付けるEZ-6の予約販売を始めた。
マツダニュースリリース
マツダの主力車種は2010年代に中国の女性から人気を集め、中国での販売台数は2018年3月期に32万2000台に達した。だが、そこから急減し、2023年は8万4949台で落ち込んだ。現在、PHVは展開しておらず、唯一展開するEV「CX-30 EV」はガソリン車を電動式に改造したもので、現地消費者に刺さっていない。
だが、2023年に中国市場から撤退を決めた三菱自に対し、マツダは勝負を捨てていない。中国合弁会社である長安マツダは9月28日、2027年までに100億元(約2000億円)を新エネルギー車の開発に投じ、同年までに毎年1車種以上の新エネ車を投入すると発表した。新エネ車のラインナップを広げることで、2027年に販売台数を30万台に増やすという。
実はリストラが報じられたVWも、2023年に中国新興EVメーカー小鵬汽車(Xpeng)に出資し、EVの共同開発に着手している。安徽省合肥市に設置したイノベーション拠点には2023年の1年で10億ドル(1ドル=150円で計算、約1500億円)を投資し、リストラ対象となったVW中国の管理職には「合肥への移籍」という選択肢も提示しているという。
中国の自動車市場で、2024年が「合弁企業の退潮」の年になるのは決定的だ。だが、それが中国勢を中心としたゲームチェンジの1年になるのか、あるいは日本やドイツなどガソリン車大手の転換の1年になるのか、今後3年が勝負の分かれ目になりそうだ。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。「新型コロナ VS 中国14億人」「崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ」(大和書房)。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚。