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マイクラで学校を楽しくしたい!コロナ禍の中学3年生に向けて楽しい学校を再び
――さいたま市立春里中学校の活用事例
- 提供:
- 日本マイクロソフト株式会社
2022年3月15日 06:45
コロナ禍で子どもたちを取り巻く学校生活は変化している。楽しみにしていた学校行事や部活動が中止になったり、度重なる感染拡大を受けて授業もオンライン授業やハイブリッド授業へと移行したりと、友だちと会えない日々も増えた。今まで、当たり前のように存在していた学校の楽しみが減り、生徒たちはそれを受け入れざるを得ない状況も続いている。
そんなコロナ禍の学校生活を少しでも楽しくすることはできないか。その手段として、教育版マインクラフトに注目し、技術・家庭科の授業に取り入れた、さいたま市立春里中学校の吉田直史教諭の取り組みを紹介しよう。
学校と家で離れて学ぶ生徒たち。気持ちを通わせる環境を作りたい
「5月に行くはずだった修学旅行が9月に延期され、その修学旅行も9月になって中止が決定。それどころか、9月に入ってからはハイブリッド授業になってしまって、生徒たちも学校と家に分かれて、友だちに会えない日々。こんな状況になってしまった中3の生徒たちに、何か面白い授業はできないだろうか、そう考えたのがマインクラフトを活用したきっかけでした」と語るのは、さいたま市立春里中学校で技術・家庭科を受け持つ吉田直史教諭だ。
度重なるコロナの感染拡大で中学生活の大半を、さまざまな制限の中で過ごしてきた中3の生徒たち。たった3年間しかない中学生活にもかかわらず、部活動や学校行事を十分に楽しめない状況が続き、最後に楽しみにしていた修学旅行も中止になってしまった。残念がる生徒たちに、“なんとか楽しみを与えたい”と、吉田教諭は、ハイブリッド授業の中で教育版マインクラフトを使う学習を考えた。
「マイクラだったら、学校にいる生徒も、家にいる生徒もつながることができますし、作品づくりを通して、友だち同士が気持ちを通わせることができると思いました。生徒たちに聞いても、やったことがある生徒は多かったですし、自分も昔、マイクラをやったことがあるので楽しめることはわかっていました」と吉田教諭は語る。
幸い、さいたま市では、Microsoft 365 Education A3を導入し、教育版マインクラフトがどの学校でも使える状態にあったことも吉田教諭の想いを後押しした。「生徒たちは、すでに中2の時にmicro:bitを使った学習や、計測・制御の学習も行なっており、micro:bitとよく似たブロック形式のコードビルダーでマインクラフトのプログラミングができるのも魅力のひとつでした」と吉田教諭。授業の中でなにか面白いことができるのではないか、と考えたという。
さいたま市教育委員会 学校教育部 教育研究所 ICT教育推進係 主任指導主事の宮内智氏は、同市では教育版マインクラフトを導入当初から制限を設けず、使いたい学校はいつでもすぐに使えるようになっているという。
「教育版マインクラフトは、Scratchや他のプログラミングツールと同じだと考えています。ゲームだと言う人もいますが、ゲーム以上のメリットがありますし、さいたま市内の小中学校では、クラブ活動に教育版マインクラフトを使っている学校もあります。運動が出来る子がいるように、マイクラが出来る子、プログラミングが出来る子と、さまざまな子どもたちにスポットライトを当てる、ひとつの手段だと考えています」(宮内氏)。
話し合い、教え合い、マイクラだから自然に発生する生徒同士の関わり
吉田教諭が取り組んだのは、技術・家庭科の時間に修学旅行の班に分かれて、自分たちが訪れる予定だった京都の歴史建造物をマインクラフト上でつくるというもの。生徒たちの多くは、ゲームとしてマインクラフトで遊んだ経験はあっても、さまざまな友だちと協力して、ひとつの作品を仕上げる共同作業の経験は意外に少ない。そのため、マインクラフトであれば楽しみながら、友だちと会えない寂しさを補えるのではないかと考えた。
学習自体は、9月のハイブリッド授業が始まった時にスタートした。学校で学ぶ生徒と家で学ぶ生徒が、それぞれの場所からマインクラフトのワールドと呼ばれる仮想空間にアクセスし、共同で作業を進めていく。最初は、家庭からの接続に失敗したり、マインクラフトをやったことがない生徒もいたりなど、上手く進められず課題も多かったようだが、吉田教諭は班で協力し合うように投げかけた。また各班が自由に試行錯誤できるように、ルールはできる限り設けないようにしたという。
筆者が見学した授業は、最初の取り組みから3か月が過ぎた頃だった。すでに、班ごとに龍安寺や清水寺、金閣寺などの建造物が出来上がりつつある状態で、この日の授業は、「発見した課題を効率よく解決することを共有しよう」がテーマ。
それぞれの班には、ホスト役となる生徒がいて、ホストのタブレット端末で立ち上げたワールドの参加コードをメンバーに共有し、共同作業が始まった。吉田教諭によると、「ホスト役の生徒はマイクラ経験者で、かつゲームに詳しい子を選び、あとは自分たちで決めるようにしました」と話す。
班の共同作業は、ブロックを手で積みながら建築を進める「手作業班」と、プログラミングで作業を進める「コード開発班」という2つの役割に分担して進められた。
手作業班は、寺の階段や鳥居、外壁、庭など、自分が担当している部分をブロックを積み重ねて表現した。「地面からどの位置に階段を設置すればいいか」「畳を表現するにはどのブロックを使えばいいか」など、生徒同士で話し合ったり、ホスト役の生徒に相談しながら作業を進めていく。生徒たちは皆、とても熱心。積み上げたブロックや建造物を上から見たり、角度を変えて見たり、出来栄えを確認しながら、友だちに意見やアドバイスを求めて何度も修正していた。
しばらくすると、手作業班の生徒たちはウェブブラウザーの画像検索を使って、自分たちの作っている建造物の写真を調べ始めた。いくらマイクラといえど、子どもたちにとって歴史建造物の再現は簡単ではないようで、五重塔や寺の柱はどうなっているのかその構造を観察したり、寺の庭には何があってどのように配置されているのかを調べたり、細かい部分を写真で確認しながら作っていく。
さらには、建造物が出来上がっても、本物に近づけるためにはどうすればいいか、実物の写真と比較しながら考えている生徒たちも多く見受けられた。その姿にみんなで協力してつくる作品をもっと良いものに仕上げたいという想いが伝わってくる。ほかにも、手作業でブロックを積み上げていた生徒が、コード開発班の様子を見て自分からプログラミングをやり始める姿もあり、みんなでひとつの作品を作る良さを感じた。
一方で、コード開発班の生徒たちも試行錯誤が続いていた。あるグループでは、苗木を自動で植えて成長させるプログラムを作っていたが、何度試しても上手くいかない。そのうち、ホスト役の生徒も手伝いに入って一緒にコードを見ながら考え始めた。「もし~なら」のブロックを使ってみるのはどうか、座標は間違っていないか、苗木にバケツの水をかけるのはどうか、さらには雨を降らすのはどうか、などトライ&エラーが続く。
ほかにも、ワールドに自分をテレポートさせるプログラムを作っている班もあったり、班を超えてプログラミングを協力し合う場面もあった。結局、苗木の自動植え付けに挑戦した班は授業時間内に完成させられなかったが、最後まであきらめることなく、粘り強くプログラミングに向き合っていた。こうした学習に対する向き合い方こそ、まさに吉田教諭が狙いとしているものだ。
授業の最後は、今日の振り返りをエクセルに入力。生徒たちは「得た知識」「知識の活用場面」「さらに学習したいこと」という3つのポイントについて、それぞれに好きな方法で入力し振り返る。マインクラフトを通して何を学んだのか。エクセルに振り返りを蓄積していくことで、新しい気づきを得ているだろう。
今までとは違うコミュニケーションが生まれる、それがマインクラフトの魅力
この授業を受けた生徒たちに、教育版マインクラフトを活用した学習について話を聞いた。
中林翔衣さんは、最初に学校でマインクラフトを使った授業をすると聞いたときは、とても驚いたと率直な気持ちを話してくれた。中林さん自身もマインクラフトをゲームとしか捉えておらず、授業でどんな風に使うのだろうと疑問に感じていたようだ。それが実際にやってみると楽しかったようだ。
「ホスト役だったので、マイクラに慣れていない子も参加できるように役割を与えたり、メンバーがプログラミングで困っているときは、“こうすればいいんじゃない?”とアドバイスを出しながら、自分も建造物の修正などを頑張りました。マイクラは限られたブロックなので、どのように表現するのか、すごく考えるので表現力が伸びると思います。またプログラミングで自動化する発想も持てるので、創造力が身につくと思います」(中林さん)
井上帆南さんは、今回の授業で初めてマインクラフトを触ったそうだ。「最初はむずかしかったけど、得意な人に教えてもらいながらがんばって作りました。清水寺を作り、その周りの階段など、少しでも本物に近づけられるよう実際に写真を調べて、バランスを考えながら作りました」と井上さん。また「マインクラフトの共同作業は、みんなでひとつのものを作る喜びや、より良いものを作りたいと思う気持ちが芽生えるので、積極性や向上心につながると思いました」と話してくれた。
光森有吾さんも同様に、作っていたお寺をいかに本物に近づけるか、クオリティを高めることにこだわったと話してくれた。「コードビルダーを使って、苗木を自動的に育てるプログラムに挑戦しましたが上手くいかず苦労しました。でも、ひとつの建造物をみんなでつくったり、プログラミングを一緒に考えたりすることで、今までとは異なる協力ができて、違うコミュニケーションが生まれると感じました。そこがマインクラフトの魅力だと思います」(光森さん)
生徒たちは、すでにゲームという概念にとらわれず、純粋にマインクラフトの共同作業で得られるポジティブなメリットを感じ取っている。その中で、友だちと一緒に試行錯誤しながら、もっと良いものを作りたいとクリエイティブな思考が育まれるのが印象的だ
マイクラだから、考えることを辞めない
このように、中学3年の授業で教育版マインクラフトを活用した吉田教諭に改めて、そのメリットや生徒の変容などを聞いた。
もともとゲームだからなのか、子どもたちは何の抵抗もなく取っつきやすいのが、マインクラフトの一番のメリットだと吉田教諭は語る。「ほかの勉強だったら“わからない”といって諦めてしまうことも、マイクラだったら、何か解決策がないかと考え、別の方法を考えます。生徒たちは考えることを辞めず、完成する、しないに関わらず、課題をなんとかしようという姿勢になるのはとても主体的です」と述べた。
生徒たちの変容ついては、「何でも取り組んでみる力が身についたと思います」と語ってくれた。「男女の壁を越えて、できる子に教わりながら見よう見まねでやってみたり、プログラミングは数人でやっていたのが、いつの間にか班を超えてやってみたり。自分で作ったものを相手に共有したり、これどう思う?と相手の意見を聞いたりと、自分をオープンにするような主体性が身についてきました」と吉田教諭は語ってくれた。
現在、日本の多くの学校では長引くコロナ禍の影響を受けて、学校生活における楽しみが減っている。友だちとの交流も少なくなり、人間関係の構築やコミュニケーションも子どもたち自身の努力だけで充実させることはむずかしいだろう。
そんなときに、多くの子どもたちが親しんでいるマインクラフトを学校で使えたなら、学校生活はきっと変わる。子どもたちは学校に来るのが楽しくなるだけでなく、コロナ禍の学校に明るさと笑顔をもたらしてくれるはずだ。純粋に、学校を楽しくするツールとして、教育版マインクラフトが広がってもいいのではないだろうか。