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キャサリン皇太子妃が戦没者追悼記念日に纏う、オールブラックコーデが印象的な理由

11月9日と10日(現地時間)、2日間にわたり戦没者追悼式典に出席したキャサリン皇太子妃。イギリス王室のメンバーはこの式典以外の公務で黒を纏うことが禁じられていると言われるがゆえに、そのオールブラックコーデは強く印象に残った。UK版『VOGUE』エディターのヘイリー・メイトランドが、ダイアナ元妃エリザベス女王の装いも振り返りながら、王室ファッションにおける“黒”のインパクトを考察する。
キャサリン皇太子妃
Photo: Getty Images

11月9日と10日(現地時間)、2日間にわたり戦没者追悼式典に出席したキャサリン皇太子妃。土曜の夜は控えめな黒のコートドレスダイアナ元妃のものだったコリングウッド(COLLINGWOOD)のピアス、モニカ ヴィネーダー(MONICA VINADER)のネックレス、そしてシャネルCHANEL)のフラップバッグを、そして翌日曜日の朝はキャサリン・ウォーカーCATHERINE WALKER)による黒のコートドレスにエリザベス女王から譲り受けたバーレーンパールのドロップピアスを組み合わせ、この式典ではお馴染みとなったオールブラックの装いに身を包んでいた。

戦没者追悼記念日とその式典以外では禁じられているという、全身黒の装い

Photo: Chris J. Ratcliffe/aflo

どちらのルックもキャサリン皇太子妃らしいクラシックかつ式典にふさわしいスタイルではあるが、王室の女性が全身黒を纏う姿を目にすることはなかなかないためか、どこか意外にも映った。

実際、毎年11月にある戦没者追悼記念日とその式典以外で、ロイヤルファミリーのメンバーが頭からつま先まで黒ずくめの服を着ることは禁じられていると言われている。しかし、バッキンガム宮殿のファッション史において例外となったケースはいくつもあり、そのどれもが記憶に残るものだ。

2016年11月、子どもたちのメンタルヘルス向上を支援する「Place2Be ウェルビーイング・イン・スクール」の講演に出席した際のキャサリン妃。プリーンによる一着を纏って。

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2017年、パリの英国大使館にて。アレキサンダー・マックイーンを着用。

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2020年、『ディア・エヴァン・ハンセン』(2021)のチャリティパフォーマンスでは、エポニーヌによるルックをセレクト。

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キャサリン皇太子妃は、ウィリアム皇太子と結婚してからの13年間、“王室のルール”に沿って公務で黒を纏うことを控えてきたが、2016年、子どもたちのメンタルヘルス向上を支援するイベントではプリーンPREEN)を、2017年にパリの英国大使館を訪問した際にはアレキサンダー・マックイーンALEXANDER McQUEEN)を、2020年のミュージカル映画『ディア・エヴァン・ハンセン』チャリティ公演ではエポニーヌ(EPONINE)を着用するなど、時折オールブラックコーデを披露している。シグネチャーカラーであるブルーを着てきた回数に比べれば数えるほどでしかないため、彼女が黒を取り入れる度にそのインパクトが際立つと言えるだろう。

ダイアナ元妃にエリザベス女王……。イギリス王室の女性が“黒”を纏った瞬間

1981年3月、ゴールドスミス・ホールに到着した際のダイアナ元妃。

Photo: Getty Images

一方、ファッションの反逆者であるダイアナ元妃は、あの有名な「リベンジドレス 」を纏うずっと前からブラックドレスの力を理解していた。例えば、チャールズ皇太子との婚約が発表された直後の1981年3月初旬、ゴールドスミス・ホールで開かれたリサイタルで彼女が着用したエリザベス&デイヴィッド・エマニュエル(ELIZABETH AND DAVID EMANUEL)のタフタガウン。「当時19歳だった私にとって、黒は最もスマートな色でした。あの一着は、大人が着るドレスでした」とダイアナ元妃自身も語っているが、それはメディアの彼女に対するイメージを一変させるために選ばれたものだった。

伝記作家のティナ・ブラウンは、著書『ダイアナ クロニクル 伝説のプリンセス最後の真実』のなかで、「彼女があの胸もとを露わにした黒のタフタドレスを着てリムジンから降り立ったとき、それはシンデレラがガラスの靴に履き替えたシーンのように劇場的な瞬間だった」と述べている。ところが、一方のチャールズ皇太子はこのドレスについて異なる意見を抱いていたようで、元妃は『ダイアナ妃の真実』の著者であるアンドリュー・モートンにこんなエピソードを明かしている。「チャールズの書斎に入っていったら、彼に『まさかそのドレスを着るのか』と聞かれたんです。そうです、と答えると、彼は『黒じゃないか! 黒は喪に服している人が着るものだ』と言いました」

後に黒はダイアナ元妃のシグネチャーカラーとなり、1995年の『アポロ13』プレミアでのヴェルサーチェVERSACE)のタンクドレスや、1997年のテート100周年記念でのジャック・アザグリー(JACQUES AZAGURY)の一着などは、彼女を象徴するアイコニックなルックとして今もなお語り継がれている。

1995年の『アポロ13』プレミアではヴェルサーチェによる黒のタンクトドレスを着用。

Photo: Tim Graham/Getty Images

1997年、テートギャラリー開館100周年記念式典ではジャック・アザグリーによる煌びやかな一着をチョイス。

Photo: Getty Images

US版『VOGUE』のサラ・ハリスの言葉を借りれば、エリザベス女王は自身の装いに「希望、安定、楽観、外交関係」にまつわるメッセージを的確に反映してきた。だが、そんな彼女でさえも王室御用達のクチュリエ、ノーマン・ハートネル(NORMAN HARTNELL)に後押しされ、黒に身を包んだことがある。それは1953年にレスター・スクエアで開かれた『Because You're Mine(原題)』の公演に出席したときのことで、女王はハートネルによるブラック&ホワイトのドレスを纏って登場した。そのルックは瞬く間に話題となり、24時間以内にはロンドン中の店にコピーが出回ったそうだ。

1953年、レスター・スクエアでミュージカル『Because You're Mine(原題)』を鑑賞したエリザベス女王。ハートネルが手がけたブラック&ホワイトのドレスを着用した。

Photo: Bettmann/Getty Images

1956年10月、マリリン・モンローと対面したエリザベス女王。

Photo: Getty Images

しかし、女王が黒の装いで最も注目を浴びたのはそれから3年後の1956年。映画『戦艦シュペー号の最後』のロイヤルプレミアで、オフショルダーのベルベットドレスを纏ってマリリン・モンローと対面したときだった。後にハートネルが英「テレグラフ」紙のインタビューに応じた際、彼は「なぜ女王に黒を着せないのか?」という質問にこう答えている。「一度は着せましたよ。ハリウッドのスターたちが煌びやかな衣装に身を包んだ盛大な夜に。私は女王に黒のベルベットドレスを着るよう説得しました。とてもシンプルな一着を。あれは大成功だったと言えるでしょう」

王室の女性たちが纏う黒は、普段は禁じられているからこそその魅力や注目度が増し、王室ファッション史における歴史的瞬間として記憶されていくのかもしれない。

Text: Hayley Maitland Adaptation: Motoko Fujita
From VOGUE.CO.UK