性的マイノリティである主人公たちの心の交流を描いた『A YEAR OF SPRINGS』は、Google Indie Games Festival 2022でトップ10に入り、大きな反響を呼びました。開発者であるnpckc(エヌピーシーケーシー)さんはその後も、仕掛けが盛りだくさんのポイントアンドクリックアドベンチャー『a pet shop after dark』をリリースし、現在も新作を開発中。日本のインディーゲームコミュニティに深く根ざしつつ、英語圏のコミュニティにも知見の深いnpckcさんに、国内外のビジュアルノベル事情について伺いました。
――自己紹介をお願いします。
npckcさん:
npckcという名前で数年前からゲームを制作しています。香港生まれでカナダ育ち、今は日本に10年くらい住んでいます。主にノベルゲームを作っていますが、代表作でいうと『A YEAR OF SPRINGS』というちょっとしたノベルゲームのトリロジーと、『a pet shop after dark』というポイントアンドクリック・ホラーアドベンチャーゲームをリリースしました。あと最近作っているのが、『マロンの日』というゲームボーイ向けのアドベンチャーゲームです。
――ここまでだけでも、ものすごい情報量ですね。
npckcさん:
(笑)。自己紹介はいつもどこから紹介すればいいか分からなくて、結構悩みます。
――npckcさんのバックグラウンドについては気になっている人も多いと思うので、一つ一つ伺っていきたいと思います。お生まれは香港なんですよね。
npckcさん:
そうです。2歳くらいだったかな、赤ちゃんのときに香港からカナダに引っ越して。でも、夏休みは香港で過ごしていました。祖父母の家に滞在しながら香港を放浪したりして、楽しく過ごしましたね。で、大学を卒業してすぐ日本に来ました。日本に来てからは香港にも帰りやすくなりましたね。飛行機で数時間で行けるので。
――ネイティブの言語は英語ですか。
npckcさん:
うーん、難しいところですね。やっぱり赤ちゃんのときから聞いていた言語が広東語なので、頭の中で考えるときは広東語で考えます。英語で考えることもできますね。だけど日本語になるとやっぱりちょっと1枚壁がある感じで。第2言語の枠に入ります。
――では、なぜカナダで大学を卒業されたあと日本にいらしたのでしょうか。
npckcさん:
えーっと、ゲームが好きなんです。最初に日本語を勉強しようと思ったきっかけは『逆転裁判』シリーズ(※1)が大好きで大好きで。『逆転裁判』シリーズの英語版が、初めてニンテンドーDSで出たんです。で、『逆転裁判4』もぜひやりたいと思ったのですが、なんと2007年当時は英語版がなくて。だから日本語を勉強するしかないと思ったんです。それで日本語を勉強して。で、『逆転裁判4』をやって日本語が少しずつ上手くなって。やっぱり『逆転裁判』が好きだから、日本で仕事したいということで今に至るという。もちろん日本で仕事をするのが楽しかったので10年も続いているというのはありますが、きっかけとしては『逆転裁判』が一番大きい影響だったかな。
(※1)『逆転裁判』シリーズ
カプコンが開発するアドベンチャーゲームシリーズ。プレイヤーは新米弁護士となって無実の罪を着せられた依頼人を救うべく、事件の真相を暴いていく。第1作は2001年10月にゲームボーイアドバンス用ソフトとして発売された『逆転裁判』。
――日本にいらしたばかりのころはどんなお仕事をされていたんでしょうか。
npckcさん:
最初は高校で、いわゆる英語教師の助手みたいなかたちでしたね。それを2年くらいやったあと、いきなりゲーム会社で勤めることになって。それからずっとゲーム会社にいて、2023年4月に個人ゲーム開発者として独立したという感じです。
――その間ずっと日本語話者として活動されていたんですよね。
npckcさん:
そうですね。最初に日本に来たときはそこまで日本語をしゃべれるというわけではなかったのですが、イベントに通ったり、日本語しかしゃべれない方といろいろ話したりして、自然に話せるようになったかなと思います。
――お仕事とは別に、個人でゲームを作り始めたのはいつごろからでしょうか。
npckcさん:
よくネットでゲームを漁ったりしていたのですが、「私も作りたい」となったのが7年くらい前ですかね。ゲーム会社で仕事をしていたときは開発ではなくローカライズ、翻訳の方の仕事だったのですが、ゲームジャム(※2)というものを知って「私でも作れるんじゃないかな」という妄想に走ってしまって作り始めました。初めて出したゲームはいわゆるWebゲームだったんです。bitsy(※3)を使って、すごく短くて5分もないWebゲームを出しましたね。
(※2)ゲームジャム
ゲームクリエイター(プログラマー、デザイナー、アーティストなど)が集まり、短時間でゲームを制作するイベント。
(※3)bitsy
オープンソースのゲーム制作ツール。
――そこからRen’Py(※4)も使うようになって、ノベルゲームを作るようになったわけですね。
npckcさん:
Ren’Pyはもともと興味があって、公開はせずに個人的に作っていたんです。初めて公開したのはbitsyを使ったゲームジャム向けの作品でしたが、そのあとまたRen’Pyを触るようになって。こっちのゲームエンジンでも作ってみたいと思うようになりました。RPGツクールで作った作品もありますね。
(※4)Ren’Py
ビジュアルノベル向けゲームエンジン。オープンソースで提供される。
――そのRen’Pyで開発された代表作の1つが『A YEAR OF SPRINGS』(※5)ですが、Google Indie Games Festival 2022でトップ10に入った後の反響はいかがでしたか。
npckcさん:
正直なところ、賞を頂けるとは思ってもみなくて。「無料で応募できるし、応募してみようかな」ぐらいの気持ちで応募したので、実をいうと結構ショックでした(笑)「あれっ、いいの!?」という気持ちで。ゲーム作りってやっぱり自分のためでもあるのですが、人にプレイしてもらいたくて作っているところもあるので、GoogleのIndie Games Festivalを経ていろいろな方にプレイしてもらったことで「自分でゲームを作っても何とかなるかも」と思えましたね。
(※5)『A YEAR OF SPRINGS』
2021年にリリースされたnpckcさんの短編ノベルゲーム集。3人の女性のジェンダーとセクシュアリティをめぐる3つの掌編から構成される。Google Indie Games Festival 2022でトップ10に入賞した。
――受賞を経て、キャリアにも自信がついたわけですね。
npckcさん:
そうですね。あと、ほかの個人開発者さんに会う機会にもなっていて。「こんなに個人でやっている方がいるんだ!」と自分の目で見るきっかけにもなったのも大きい気がします。ただ残念ながら、今年からIndie Games Festivalはなくなって、違う方向性で進められるみたいですね。ちょっと悲しい。年に1回のお祭りみたいな感じだったので、残念です。ほかの人が作っているものを一気に見られる機会だったので、惜しいですね。
――開発者が繋がる場や発表の場が求められている今だからこそ、大きなお祭りが1つ減ってしまったのは寂しいですね。
npckcさん:
特に、Android向けに開発している方とPC向けに開発している方は顔ぶれが結構違うんです。もちろんスマホ向けとPC向け両方開発している方もいるといえばいるのですが、作り方が結構変わるので、そういった方向性が異なる方々と会って考え方の違いに触れる機会が減ったのは少し残念ですね。
――またこういう場が増えるといいですね。
npckcさん:
そうですね。最近はインディーゲーム向けのカンファレンスなども増えていますし、日本のインディーゲームのコミュニティや盛り上がり方がどんどんいろんな方向に走っているので、どこに向かっていくのかを見るのも楽しみです。
「読むだけ」じゃないノベルゲーム
――npckcさんはこれまで、ビジュアルノベルをメインに発表されてきましたよね。
npckcさん:
はい。というのも、ビジュアルノベルに入るかどうかは人によって意見が分かれると思うのですが、やっぱり『逆転裁判』が大好きで大好きで。それがきっかけでノベルゲームを作るようになったんです。『逆転裁判』のストーリーの構成から影響を受けているので、同作がなかったら作っていないんですよ。本当に。
『逆転裁判』の特徴というと、マルチエンディングがなくてストーリーが決まっている点があると思います。でもいわゆるキネティックノベル(※6)みたいな、選択肢なしでそのままプレイして読むノベルゲームとは違うんですよね。ちょっとゲームプレイを入れることでマルチエンドではなくとも、ちゃんとプレイヤーとしてストーリーを導いてあげている感覚が生まれるんです。そういうのが大事だなと思います。
(※6)キネティックノベル
株式会社ビジュアルアーツが制作するノベルゲームのジャンル。選択肢を極力排し、純粋なストーリーに動的な演出を盛り込むことに注力するのが特徴。
――プレイヤーの行動によって物語が進んでいく点に影響を受けているということでしょうか。
npckcさん:
そう感じています。実際には『逆転裁判』って、正解以外の選択肢を選ぶと「これは間違いだから先に進めないよ」と言われてしまうので、選択肢って1つしかないんですよ。それでも「選べる」というところで、ちゃんとプレイヤーがゲームをできているという気持ちにさせてくれるんですよね。似たところでいうと『レイトン教授』シリーズ(※7)もパズルゲームではあるのですが、本質はビジュアルノベルに通ずるところがあると思います。
(※7)『レイトン教授』シリーズ
レベルファイブが開発するパズル・アドベンチャーゲーム。プレイヤーは考古学者レイトンとして、数々のナゾ(パズル)を解きながらストーリーを追いかける。
――ゲームプレイを交えながら物語を追いかける点に共通点があるわけですね。
npckcさん:
もうちょっとビジュアルノベル的な話でいうと、自分が初めて遊んだ「伝統的な」ノベルゲームで、結構前に出た『乙女的恋革命★ラブレボ!!』(※8)というゲームがあるんです。当時はPlayStation 2とPCで出た作品ですね。この作品はいわゆるシミュレーションゲームで、主人公を育成するゲームなんです。運動したり勉強したり、ステータスアップすることで恋愛したいキャラクターとの展開が増えていく感じですね。この作品に触れて、「こういう感じでもノベルゲームって楽しめるんだ」っていうことを学んだっていうか。読むだけではなく、シミュレーションとしてのゲームプレイ要素があることで、プレイヤーも楽しめると思いました。
(※9)『乙女的恋革命★ラブレボ!!』
2006年にインターチャネルから発売された恋愛シミュレーションゲーム。ダイエットをテーマに、プレイヤーはシミュレーションパートとアドベンチャーパートを繰り返しながら男性キャラクターとの恋愛を体験する。
――「ステータスを上げる」という行為があるからゲームに参加できるということですね。
npckcさん:
同じビジュアルノベルでいうと『ときめきメモリアル』シリーズ(※9)もそういう感じですし。ストーリーを味わうだけでももちろん楽しいのですが、ちょっとゲームプレイ要素を入れることで、より楽しめる気がしました。
(※9)『ときめきメモリアル』シリーズ
コナミから発売された恋愛シミュレーションゲームシリーズ。プレイヤーは高校生活を過ごすなかで自身のパラメータを上昇させ、意中の相手と結ばれることを目指す。
――自分のゲームプレイによって物語が展開するのが大事と。
npckcさん:
会話を選択するだけでなく行動を選択することによって、普通のノベルゲームに少しほかのジャンルの要素も入れられるんですよね。個人的には会話の分岐だけのゲームも大好きなのですが、海外だと日本の事情とは結構変わって、「ノベルゲームって読むだけじゃん」という考えの人も多いんです。特に選択肢が少ないと、「この選択肢選んでも、会話がちょっと変わるだけじゃん」って。私は会話がちょっと変わるのが楽しいと思うんですけどね。そういった事情もあっていろいろと言われてしまうので、特に海外向けにノベルゲームを作る場合はゲームプレイを増やす方もいると思います。
――ノベルゲームに対する受け入れ方が、日本と海外だとそんなに違うんですね。
npckcさん:
そうですね。どうしてもノベルゲームというのが日本で生まれたジャンルなので、「読むだけ」というゲームプレイへの抵抗感の違いはあると思います。海外ではノベルゲームがそもそも知られていないですし、知っていてもパロディなどの冗談として扱われるジャンルになっているので。そういう「ノベルゲームはちょっと……」というプレイヤーに届けるためには、ほかのジャンルの要素も入れた方がいいと思います。
――そういった考えもあって、npckcさんのノベルゲームにはゲームプレイ要素が積極的に取り入れられているのでしょうか。
npckcさん:
ゲームプレイと言ってもガチガチのRPGじゃなくて、たとえば『Coffee Talk』(※10)や『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』(※11)系のように、会話を選ぶんじゃなくて飲みものを入れる材料を選ぶとか、そういう風にメニューのUIを工夫するだけでも「ゲームをやっている感」が出ますね。
(※11)『Coffee Talk』
インドネシアのインディーゲームスタジオToge Productionsが2020年にリリースしたノベルゲーム。プレイヤーはカフェのバリスタとなり、サキュバスやエルフといった多様な種族の話を聞きながら飲み物を提供する。その際、飲み物に使用する材料によって話の展開が変化する。
(※12)『VA-11 Hall-A: Cyberpunk Bartender Action』
ベネズエラに拠点を置くSukeban Gamesが2016年にSteam版をリリースしたビジュアルノベル。プレイヤーはディストピアに店を置くバーのバーテンダーとなり、住民たちにドリンクを提供する。
――npckcさんの作品の1つである『A Tavern for Tea』(※13)もそのような方向性で設計されているのでしょうか。
npckcさん:
そうです。あのゲームも結局選択肢を選んでいるだけなのですが、その選択肢を「酒場のメニュー」という表現にすることで、プレイヤーが「飲み物を作っている」と思えるかたちにしました。そうすることで、選択肢を選ばされているだけとは思いにくい設計になっていると思います。
(※13)『A Tavern for Tea』
npckcさんが2023年にリリースしたアドベンチャーゲーム。プレイヤーはハーブティーを提供する酒場のマスターとして、異世界の住民たちに飲み物を振舞う。ハーブティーに使う茶葉やスパイスによってストーリーが展開する。
――世界観に没入できるUIにすることで、選択肢型のノベルゲームも違った楽しみ方ができそうですね。
npckcさん:
でもノベルゲームに関しては本当に海外、特に英語圏では普及していないんです。最近の作品でいうと、私が大好きな『バディミッション BOND』(※14)というNintendo Switchの作品があるんですね。コーエーテクモゲームスのルビーパーティーが出しているんですが、素敵な王道展開で、『アイシールド21』(※15)の漫画家さんがキャラクターデザインで参加しているような豪華メンバーの最高なゲームなのに……香港・台湾・韓国向けのローカライズはあるんですが、英語がないんですよ。
(※14)『バディミッション BOND』
コーエーテクモゲームスの女性向けコンテンツ開発チーム、ルビーパーティーが任天堂と協働開発したアドベンチャーゲーム。「BOND」と呼ばれるチームのなかから2人を選び、相棒を入れ替えながら問題の解決に臨む。
(※15)『アイシールド21』
原作を稲垣理一郎氏、作画を村田雄介氏が手がけた日本の漫画作品。アメリカンフットボールをテーマに、2002年から2009年まで週刊少年ジャンプにて連載された。
――それは意外ですね。
npckcさん:
そもそも英語圏に出していなくて、日本・香港・台湾・韓国だけなんです。こんなに素敵なゲームでも英語版を出さないんですよ。コーエーテクモゲームスほどの大手でも、ノベルゲームを英語で出すということをしないんです。それくらいの市場なんですよ。
――それだけ英語圏でビジュアルノベルを出すにはハードルが高いんですね。
npckcさん:
少なくともハードルがあると思われてると思います。大手のルビーパーティーでも、ネオロマンスシリーズ(※16)のたとえば『金色のコルダ』シリーズ(※17)や『遥かなる時空の中で』シリーズ(※18)とかは全然英語展開していないので。アジア向けのローカライズはあるんですけどね。
(※16)ネオロマンスシリーズ
コーエーテクモゲームスが開発する恋愛ゲームシリーズの総称。
(※17)『金色のコルダ』シリーズ
ネオロマンスシリーズの作品の1つ。横浜の学院を舞台に、高校生としてヴァイオリンの練習に励みつつ意中の男性との恋愛を体験する。
(※18)『遥かなる時空の中で』シリーズ
ネオロマンスシリーズの作品の1つ。和風の異世界に召喚された主人公が自身の運命と向き合いながら男性との仲を深めていく。
――大手でもそういった状況だとすると、インディーゲームのビジュアルノベルを英語圏に届けるにはまた違った工夫が必要なのでしょうか。
npckcさん:
そうですね、そのままではちょっと難しいところもあると思うんですよ。やっぱり英語に翻訳しただけではなかなかうまくいかないと思うので。でも日本の……あっ。
~♪(鳴り響く『逆転裁判』の劇中歌)
npckcさん:
すみません。電話の着信音も『逆転裁判』なんです。
――本当に『逆転裁判』の一幕みたいですね。
npckcさん:
えっと、何でしたっけ。逆に海外での人気が爆発的なビジュアルノベルもあるんです。個人的にすごく素敵だと思っている『ファタモルガーナの館』(※19)というビジュアルノベルがあって、それは選択肢がほとんどないゲームなのですが、海外でめっちゃ人気なんですよ。よくランキングサイトでもトップに出るんです。英語版の翻訳も、日本語のオリジナル版も本当に本当に素敵なんですよね。雰囲気が結構ダークで、お店でビジュアルノベルを買おうと思ったらあまり見ないテイストのゲームだと思うんですよ。逆に、よく見る感じじゃないからこそ、海外での評価が高くなったのかなと思います。
(※19)『ファタモルガーナの館』
日本のデベロッパーNovectacle(現・NOVECT)が開発したノベルゲーム。2012年にPC版が発売された。記憶を失ったプレイヤーは、謎めいた女中に導かれ呪われた館の謎を解き明かしていく。
――ノベルゲームとしては特異な作風が海外ファンを惹きつけているんですね。
npckcさん:
似たような話で、アドベンチャーゲームにはなるんですが私の好きなシリーズで『極限脱出』シリーズ(※20)があります。そっちはすごく海外で人気なんですけど、日本ではそこまで認知度が高くないんですよね、なぜか。もう本当に、海外ではめっちゃ人気なんですよ。「ノベルゲームといったらこれだ」「展開がすごく面白かった」とかみんな言うんですね。英語圏では「ノベルゲームでこんなの初めてだ」とかそういう意見が多いんです。
(※20)『極限脱出』シリーズ
スパイク・チュンソフトによるアドベンチャーゲームシリーズ。『極限脱出 9時間9人9の扉』『極限脱出ADV 善人シボウデス』『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』がリリースされている。
――『極限脱出』シリーズについては、なぜそこまで海外での人気が高まっているのでしょうか。
npckcさん:
本当にストーリーが面白いのに加えて、自分でミステリーの秘密を解けるというところが好まれていると思います。「どうしてこういう展開になっているのか」を自分で探す。そして、最後のトゥルーエンドを自分の手で見つけ出すというところが強いと思うんです。本質的にいうとお話を読んでいるだけなんだけど、でも「読むだけ」と感じないような構造になっているところが強い。
――『ファタモルガーナの館』も『極限脱出』シリーズも、それぞれの強みで英語圏の方々に遊ばれているんですね。改めて、日本のインディーゲーム界隈でビジュアルノベルを作っている人が英語圏に自分の作品を届けようとする場合、どんな工夫をするのがよいでしょうか。
npckcさん:
目的にもよると思うのですが、自分の作りたいゲームを作ればいいと思いますし、それで英語圏に出したいという気持ちがあれば、英語に翻訳するのがいいと思います。ですが、たとえば日本に住んでいる方がわざわざ海外のゲームを遊ぶときって「海外だからこういうのがあるよね」って求めてるところもあると思うんです。だから、日本の方が自分のノベルゲームを英語圏に届けるときも、ほかのゲームにない体験が自分のゲームにあるかを意識するといいと思います。そこは多分、個人が強いと思うんですよ。大手ならそんなに実験的なことはできないかもしれないのですが、個人だからこそ作れる体験とかもあると思うので。
あとやっぱり英語で出すなら、ちゃんと英語で広報しないと誰も存在を知らないので、こういうゲームがあるってことすら知らないと手に取ってもらえないですね。
――英語圏に向けた広報も大変ですよね。個人でできる英語圏向けのPRにはどんなことがあるでしょうか。
npckcさん:
一番大きいのが、たとえばSteamで出す場合、体験版を出してSteam Next Fest(※21)に参加するとか。Steamで出さない場合は、たとえばitch.ioならゲームジャムに参加することでほかのゲームの参加者に見てもらうとかも可能だと思います。それから個人的に機械翻訳はあまり好きではないですが、ちょっとしたPR文に機械翻訳でもいいから英語を書いて、「こういうゲームをやってるよ」とSNSに投稿するとか。でもやっぱりゲームはたくさんあるから、そのなかから自分のゲームを見てもらうのは大変だと思いますね。
(※21)Steam Next Fest
Steamにて年3回開催されるイベント。発売前のゲームの体験版が数多く配信され、ライブストリーミングなどもおこなわれる。
――英語圏の方はSNSは何をメインで使われてるんでしょうか。
npckcさん:
ゲーム開発者であれば、前はTwitter(現・X)でしたね。でも近年のTwitterにおいては投稿しても見てもらえないとか、インプレッションゾンビしか出てこないとかっていう問題もあって、ちょっとSNSが分散している感じはありますね。Instagramは使っている方が多いのですが、Instagramを使っている方でゲームを見ている人は少ない気がします。今強いのはTikTokですかね。でもTikTokの悪いところは、日本から普通に投稿しても日本のユーザーにしか見てもらえないんですよ。だから、たとえばアメリカに投稿を出したい場合は、現地にいる友人にTikTokをインストールしてもらって投稿してもらうしかないですね(笑)そこまでやるならもう個人ってレベルじゃないかもしれません。
――SNSにおけるPRは迷走期に入っている感じもしますね。
npckcさん:
まだTwitterだけでやっている方もいれば、Instagramで頑張っている方もいるし、特にノベルゲームならTumblr(※22)もまだ元気ですよ。ノベルゲーム客層とかビジュアルノベル・アドベンチャーゲームが好きな人はまだ結構残っているので。そっちだと画像だけ投稿しても、タグをいろいろつけることでタグを追って見てくれる人もいるので。
(※22)Tumblr
ブログとSNSを統合したサービス。一般的なブログのように記事を投稿できる一方、Xのように他人をフォローしたりリブログ(リポストに相当)したりすることが可能。
――ビジュアルノベル界隈の人がよく使っているタグは何ですか。
npckcさん:
本当に簡単に「#visualnovel」だけでもいいし、たとえば乙女ゲームを作ったら「#otome」とか。あとはリブログしてもらうと、そういうのが好きな人に届くので。でもそっちは普通のゲームだとあんまり盛り上がらないかもしれないですね。ノベルゲームはいけますが。
――なるほど。ちなみに今は日本から海外に届けるお話をしましたが、逆に海外のゲームを日本に届けるときにはどういう壁があると感じられていますか。
npckcさん:
一番大きいのがやっぱり、言語の壁です。英語で書いてもあまり見てもらえないですね、日本語のユーザーには。ちょっと英文字を入れただけで「ああ、これは読めないな」と思われてしまうことがある気がします。
――英語があるだけで壁を感じてしまう人は多いですよね。
npckcさん:
あとビジネス的な話になってしまうんですが、日本語はほかの言語より翻訳するコストが高いんです。そもそも日本語っていうのが高コストな言語なのに対し、ユーザーが少ない。だからコスパあんまりよくないんです(笑)けど、それでも海外の開発者が日本語版を出したいのは、やっぱり子どものときに任天堂のゲームをやってたとか、セガのドリームキャストを持ってたとか、PlayStationのゲームが好きだから「自分も日本語でゲームを出したい」という夢を持つ人が多いんです。そのためにはやはり、日本語で出さないといけないのですが……。
――日本のユーザーとしてはとてもありがたいですね。
npckcさん:
あと1つの壁としては、ゲームに限られた話ではないのですが、日本のユーザーって厳しいんですよ。本当に「いい」と思ってもなかなか星5とかいいねをつけてくれないんですね。某プラットフォームでの話になるんですが、そこでは世界基準の評価が星4以上だとフィーチャーされるチャンスが増えるんです。ですが、日本と韓国だけ星3.5でもフィーチャー可になっていて。理由としては、日本と韓国のユーザーは辛口だから「星3.5でも評判がいい」ということになってるんです。
ほかにも、たとえば好きなレストランを検索してGoogleレビューを見てても、個人的にすごくいいレストランだと思っているのに星3.2とかになったりして。
――日本人は厳しいというだけでなく、「評価すること自体に慣れていない」という人も多いかもしれないですね。
npckcさん:
そういう文化だから、たとえ星3.5でも気持ちの上では大丈夫だと思うのですが、残念ながら世界向けのプラットフォームだと、先ほど述べたようなレーティングの住み分けがされていないことも多いです。日本向けに対応したために全体としてのレーティングが厳しめになってしまい、ほかの国に影響してしまうこともあるので、そういうリスクも考えないといけないですね。
――日本で出したばかりに全体としての評価が控えめになってしまうリスクもあるわけですね。
npckcさん:
あります。それでもみんな日本で出したいんです。壁があっても出したいんですよ。そういうところもちょっと難しいですね。
――日本人としては、どんどん海外の方に日本でゲームを出してもらうために、いいと思ったゲームをどんどん「いい」と評価していくことが大切ですね。
npckcさん:
素直に「いい!」と言っていくことが大事ですね。個人の開発者さんだとレビューが悪くて凹んでしまう人もいると思うので。逆に友達から聞いた話ですが、英語版を出したら甘めのコメントが増えて嬉しいという話も聞きますね。
――英語圏の方が評価が優しいんですね。
npckcさん:
「作品に1個でもいいところがあればOK!」って感じで。Steamで「ここが良くなかった、ここも良くなかった、ここも良くなかった……」って全部述べてるのに、「おすすめ」としてレビューしてる人もいますね。「ここだけよかったから、ほかは悪いけどおすすめします」とかいう人もいます。
――評価の仕方にも文化の違いが出てくるんですね。
npckcさん:
そうですね。ときどき海外のゲームイベントと日本のゲームイベントに出ると結構雰囲気が違ったりするのですが、ユーザーが感想を直にイベントで言ってくれるかどうか、も違いますね。
――確かに日本のゲーマーはシャイな人が多いので、その場で「あれがよかった、ここはダメ」と言う人は少ない気がします。
npckcさん:
もちろんそういうフィードバックが必要ない開発者さんもいますが、せっかくライブイベントでプレイしてもらっているので、「よかったです」とか一言でも聞けると個人的には嬉しいかなって思いますね。そういうちょっとした言葉ってめっちゃ励みになるので。
――些細な感想でも、素敵なゲームを作ってくれる開発者さんの力になるかもしれないですもんね。
npckcさん:
なると思います。
子ウサギ・マロンのモデルは「カエル」
――ここで、npckcさんの開発中の新作についても伺っていきたいと思います。今開発されている『マロンの日』について教えていただけるでしょうか。
npckcさん:
『マロンの日』はもともと、前に自分がゲームジャムで作った作品の続きとして制作しているゲームです。マロンというウサギのほのぼのアドベンチャーになります。GB Studio(※23)というエンジンでゲームボーイ向けに作っていまして、最終的にはSteamで出すのと同時に、ゲームボーイのカートリッジでも発売する予定です。ちゃんとゲームボーイ実機で動くように作っています。
(※23)GB Studio
ロンドンの開発者、Chris Maltby氏がリリースしたゲーム開発アプリケーション。プログラミングをすることなく、2DスタイルのRPGやアクションゲームなど、ゲームボーイ風のレトロなゲームを開発できる。
――npckcさんといえばこれまでビジュアルノベルを数多く作られていますが、『マロンの日』はビジュアルノベルとはまた少し違う見下ろし型のアドベンチャーゲームですよね。こういったかたちに挑戦されたきっかけは何でしょうか。
npckcさん:
もともとゲームボーイが大好きなんです。最近Nintendo Switchでも配信が開始した『カエルの為に鐘は鳴る』(※24)という作品が本当に大好きなゲームでして。バトルもシンプルでゲーム自体もハードではないんですが、すごくストーリーが面白くて「こういう構造でもゲームが作れるんだ」と子どものころにすごく感動したんです。そういうゲームを自分でも作ってみたいな、と思ってゲームボーイで作り始めました。
(※24)『カエルの為に鐘は鳴る』
任天堂とインテリジェントシステムズが開発し、1992年に発売したゲームボーイ用アクションRPG。主人公はヒロインのティラミス姫を救うため、「人間」「カエル」「ヘビ」の3つの姿を使い分けながら冒険する。2024年よりNintendo Switch向けに配信が開始した。
――『マロンの日』はがっつり『カエルの為に鐘は鳴る』をリスペクトしているんですね。
npckcさん:
本当にそうですね。『カエルの為に鐘は鳴る』は本当に楽しいし、自分がカエルを動かせるのが好きだから、「こっちは子ウサギだ!」という気持ちで作ってます。
――自分が動物になりたいという欲求があると。
npckcさん:
ありますね。なんか可愛いんですよ。カエルというのが。
――私もNintendo Switchで『カエルの為に鐘は鳴る』を遊びましたが、非常に面白かったです。
npckcさん:
いや、本当に面白いんですよね。「ゲームボーイでよくできた!」と思ってます。巨大に出てくるキャラクターのスプライトが可愛くて。すごく独特な、デカ文字で台詞を言うところとか、ちょっとした演出ですごく楽しくなるので。
――『マロンの日』の開発の進捗はどれくらいですか。
npckcさん:
まだまだですね。GB Studioで作っているのですが、エンジン側が何回も何回もアップデートをしていて、それにも対応しながら開発しています。ほかのプロジェクトも同時に動かしているので、『マロンの日』は今年中には出す予定なのですが、多分年末ぐらいにはなると思います。
――楽しみにしております。
開発者が「生存」するために
――npckcさんがインディーゲーム専業開発者として開発してみて1年間、いかがでしたか。
npckcさん:
1年間頑張ったところ、2年目も頑張れるということが分かりました。またちょっとビジネス的な話になるのですが、インディーゲームが売れることで生活費が入るので、売れないと生活費が入らないわけです。生活費をカバーできるうえで貯金も少しできるくらいにはお金をもらえているので、本当にありがたく続いています。あと個人開発者によくある話だと思うのですが、インディーゲーム専業といっても私は副業として翻訳業もやっているので、開発とは別に安定した収入も入るようにしています。それからPatreon(※25)というpixivFANBOXみたいなサイトがあるんですが、そちらで毎月ファンからの支援が入ることで安定するので、本当にありがたいと思っています。
(※25)Patreon
クリエイター支援プラットフォーム。ユーザーはクリエイターに月会費を支払うことで、限定のコンテンツなどを利用することができる。
npckcさんブログより引用
――各プラットフォームでのゲームの販売、副業、Patreonという3本柱で活動されているんですね。
npckcさん:
いろいろなプラットフォームに出すことで、各プラットフォームのユーザーにご購入いただいています。Steamだけだと厳しい場合でも、Google Playもあるから大丈夫、という感じですね。今の売上の割合でいうと副業の翻訳が10%くらいになっているので、残りがゲームとPatreonになっています。
――これからインディーゲーム専業でやっていきたい人にアドバイスするとしたら、どんなことを伝えますか。
npckcさん:
ちゃんと分かってもらいたいことは、本当にゲームが売れないとお金がないので。大体専業って言っている方って、ほかにも収入があるんですよ。もちろん「1人で全部できる」と言いたい人も多いし、自分だけで生きていける人もいると思うんですが、そこを最初から目指さないで、ちゃんと地に足を着いたやり方の方が最後まで生きていけると思います。夢がない答えになってしまうんですが。最初からいきなり仕事をやめて「このゲーム1本に賭ける!」とかそういうのはあまりおすすめできないですね。
私もずっと7年前からゲームを作っているんですが、1年目でやめたら絶対にここまでできなかったと思うんですよ。本業と一緒にいろんなゲームを作って来て、6年ぐらい頑張ったところで、やっと「これぐらいなら仕事をやめられる、大丈夫」というところまでいってから仕事をやめているので。
あと個人開発者だと休業手当とか何も出ないんですよ。たとえばちょっとパーソナルな話になるんですが、私は健康面で問題を抱えていて、そもそもあまり電車に長時間乗っていられないし、手もあまり動かせないこともあるんです。そういうときってゲーム開発できないので仕事ができないんですが、休業はできないんですね。だからそういうのがあっても大丈夫になるように個人的におすすめしているのが、ちゃんとiDeCo(※26)とNISA(※27)に投資することです。すごい現実的な話ですけど(笑)あと年金はちゃんと払って、国民年金にすること。地味な話ですが。
(※26)iDeCo
個人型確定拠出年金。自分が拠出した掛金を、自分で運用し、資産を形成する年金制度。
(※27)NISA
少額投資非課税制度。少額からの投資をおこない、利益を非課税で得られるなどのメリットがある。
――安心して生活できる前提がないと、作りたいものも作れないですもんね。
npckcさん:
そうですよ。あと周りの友達とか家族みんな心配するので、ちゃんと「大丈夫だよ」って安心させるために、そういう策があった方がいいです。新NISAになってから分かりやすくなってるので、ちゃんと見てみましょう(笑)毎月1000円からでもいいんですよ! もちろんいいゲームを作るのも大事なんですが、生活できない人はいいゲームを作れないと思うので。
――健康な生活あってこそ好きなゲームを作れるわけですよね。
npckcさん:
めっちゃ素敵なゲームを作って、それで燃え尽きて死んだらもったいないじゃないですか。今たとえば20代30代でゲームを作ってるとして、その人が50代60代になったときに作るゲームも見たいから。ちゃんと最後まで生きてゲームを作ってほしいです、皆さんには。生存大事。
――開発者の生存の場といえば、npckcさんはTokyo Indies(※28)の運営にも関わっていらっしゃいますよね。
npckcさん:
そうですね、1年2年前からスタッフとして頑張っています。
(※28)Tokyo Indies
都内で開催されるインディーゲーム開発者向けのイベント。月に一度、個人ゲーム開発者が集まり、お互いのゲームを見せ合いつつ意見交換することを目的とする。
――運営に参加するようになったきっかけは何ですか。
npckcさん:
主催者ともともと友達で、大変そうだったので手伝いたいと思ったんです。というのも、Tokyo Indiesに関しては本当にスポンサーも何にもなくボランティアで毎月やっているだけなので、主催がやめるっていったらすぐになくなるんですね。実際、特にコロナ禍の影響でほかにもなくなったイベントがあるんですよ。個人開発者の居場所がなくなるのはすごくもったいないと思って。個人だからこそ自分でコミュニティに参加しないと、本当に人と会わずに生きてしまうので(笑)
――個人開発者って孤独ですよね……。
npckcさん:
そういう孤独を抱えていると苦しい気持ちを抱え込んでしまいがちですよね。でも人と会うことで、元気をもらえるんです。
――お金の生存だけでなく、心の生存も大事ですね。
npckcさん:
孤独にずっと1人で悩まないで、人と会ってちょっと元気を出すだけで結構変わります。ちょっと何でもない話をするのって大事ですね。
――Tokyo Indiesに関わるなど、日本のインディーゲームのコミュニティを見てどう思われますか。
npckcさん:
小さなコミュニティがたくさんあるように感じますね。たとえば世界向けのSteamやitch.ioは何でもありじゃないですか。でも日本のゲームプラットフォームだとジャンル分けが細かくされていますよね。ノベルゲームコレクション(※29)はノベルゲームだけですし、unityroom(※30)はUnityのゲームだけって感じになっていたり。住み分けがとても上手くいっている一方で、本来繋がれたかもしれない方と繋がれなくなっているのは少し寂しい気もします。もちろん「ノベルゲームの好きな人と繋がりたい」という気持ちもあったりするんですが、ほかのゲームを作っている人と繋がることで、新しい視点も入ると思うので。「ここにいていいよ」というウェルカムな雰囲気を作るのが大事だと思います。
(※29)ノベルゲームコレクション
国内のノベルゲーム専用投稿サイト。ノベルゲーム制作ソフト「ティラノスクリプト」もしくは「ティラノビルダー」を使って制作したゲームを投稿できる。
(※30)unityroom
国内のフリーゲーム投稿サイト。Unityで制作したゲームを投稿できる。
「その日の勇者」でいい
――ご趣味を教えてください。ただし、「残りHP100のときに打ち込む趣味」「残りHP50のときに楽しむ趣味」「残りHP1のときにする趣味」に分けて教えてください。
npckcさん:
残り100ってときはほとんどない気がしますが(笑) 本当に100HPがあったら、もうゲーム制作ですね。本当に作るのが大好きなので、ただただゲームを作るだけで生きていけるのに本当に感謝しているし、こんな幸せな人生あるのかってくらいに思っています。短編ゲームをたくさん作りたいです。作って、寝て、起きて、食べて、また作るっていうサイクルが楽しいんですよ。専業個人開発者って大変なんだけど、そういうのが自由にできるのが本当に嬉しいので。
HPが50のときでいうと、平日のお出かけとかでカフェに行くとか、気分転換にお出かけするのが好きですね。
――お気に入りのカフェはありますか。
npckcさん:
近所のコメダ珈琲店です。コメダに行くだけでも気分転換になります。食べ物が大きすぎて、注文したら2人分くらい出てくるんですよ。コスパが最高です。コメダありがとう! モーニングもおいしい。パンもおいしい。ちょっと座って、ときどきパソコンも持って行って、作業をしてから帰ります。ありがとうコメダ!
――残りHP1のときはどうしますか。
npckcさん:
うーん。床に寝転んでモルモットを眺める……。
――モルモットを飼ってらっしゃるんですね。
npckcさん:
すごく可愛い2匹を飼ってまして。よくリビングでゲーム開発しているんですが、疲れたときは後ろにいるモルを眺めてからまた仕事に戻っています。
――お名前は何ですか。
npckcさん:
ミルクとラスクです。結構大きいです。持つと意外と重いんです。みんなハムスターくらいだと思うと思うんですが、結構でかいので、片手に載せるには重たいくらいですね。おかげで疲れてるとき、見るだけで癒されるので最高です。
――人生で影響を受けた作品を5つ教えていただけますか。
npckcさん:
ゲームについてはいろいろ言ったので、ほかのメディアで言うと、まずパーシー・ビッシュ・シェリー(※31)という詩人ですね。有名な詩に『Mont Blanc』というヨーロッパの山の巨大さを描いた作品があります。奥さんはマリー・シェリーで『フランケンシュタイン』を書いた人ですね。旦那のパーシーは『詩の擁護』という文芸評論を書いて、「どうして人は詩を書くか」というエッセイみたいなものを書いたんです。
このエッセイが好きな理由は、ものを作る人って別に論理的に動いているとかそういうのじゃなくて、ただただ創造しないといけないから創造している、勝手に想像しているから頭に浮かんだものを捕まえようとしてそれを実現しようとしているだけなんですよ、っていう詩の話で。それを初めて読んだとき本当に共感できて。人々はどうしてものを作るかっていう理由に関しては「作らないと生きていけないから」ですね。作りたい欲がありすぎて作ってるだけっていうのが、自分も割とそういうのがあるから、こういう道になってしまったって思っているところがあります。
本当におすすめなので、もしまだ読んでいない方にはおすすめします。友達が詩についていろいろ書いたところで、「いや、詩っていうのはそういうのじゃないんだよ、論理的に説明できないんですよ」っていうのを長々と書いたエッセイなので。本当にいいんです。『フランケンシュタイン』ももちろんいいですし、シェリーのほかの詩もおすすめなので。
(※31)パーシー・ビッシュ・シェリー
19世紀のイギリスの詩人。ロマン派を代表する存在の1人。
――今聞いたお話だけでも、とても元気が出てきますね。
npckcさん:
ほかの作品でいうと、香港で出たアニメになるんですが、『マクダル』(※32)というアニメーションですね。いわゆる香港人向けの香港が舞台の作品で、マクダルっていうブタの話です。「ダル(dull)」は英語で「地味」という意味なんですね。普通の子どもが生きて、どういう未来になるか、どういう人生を歩めばいいかについて、いろいろと考える映画です。
すごく影響を受けたところが、映画とかフィクションの主人公ってカッコいいことをするじゃないですか。最終的にはヒーローが頑張って努力したから報われる。でもマクダルは報われないんです。普通の人間なので普通に学校に行って、学校で頑張っても失敗する。頭もよくない。お母さんに「クリスマスはターキーが食べたい」って言うんですが、お金がないので、お母さんはすごく頑張ってターキーを買うんです。でも、すごく高かったからもったいないといって、続く3か月くらいずっと残りのターキーを食べないといけなくなるとか。自分の夢が実現してもあまり嬉しくない、あまり楽しい話じゃないんですね。でも「そういうのって人生ですよね」っていう。そういうことを思い知らせる映画ですごく好きです。
(※32)『マクダル』
香港のアニメーション作品シリーズ。ほのぼのしたキャラクターで描くシビアな現実と、ナンセンスなギャグが特徴。
――結構シビアな話なんですね。
npckcさん:
でも、シビアに聞こえるんですが、観るとすごく笑うところが多くて、意外と重く感じないんですよ。みんな共感できるところがあると思うんですね。「お金がないときはこうやって頑張ろう」とか。お母さんが自分なりに頑張ってるとか。子どもがモルディブに行きたいって言うんだけど、お金がないからただ国内の山でハイキングするだけで誤魔化すとか。人生の中で欲しいと思うものが全部手に入らなくても、自分なりに幸せはつかめるっていう。いい話だと思います。
――npckcさんのテーマとも共通していますか。
npckcさん:
多分そういう面もありますね。勇者とかヒーローものとかってあまり現実味がないんです。でも意外と日常生活でもちょっとしたことで自分の行動がほかの人に影響したり、ほかの人の行動に影響されたりするので、そういうところでその日のヒーローになれたりするんですね。それぐらいの勇者でいいと思っています。
ほかに好きな本で言うと、『Discworld』(※33)というファンタジーシリーズが好きです。イギリスのテリー・プラチェットという作家の作品ですが、ファンタジーの世界で現実の世界についていろいろ語るシリーズで、そういうのもあって、自分もファンタジー作品を作るようになりました。結構政治的な話になるんですが、ファンタジーだから許されてるところがあります。
(※33)『Discworld』
イギリスのファンタジー作家、テリー・プラチェットによるユーモアファンタジー小説のシリーズ。政治、ロックミュージック、イギリス王室、労働組合といった現代社会に対する風刺を取り入れた作風が特徴。
――風刺的な話なんですね。
npckcさん:
法的なLGBTQ+関連の話も入ってたり、政治的な戦争についての話も入っていたりします。でも『Discworld』のいいところは、重い話だけじゃなくコメディ的なところもあったりするところですね。希望もあるからこそ重い話ができていると思います。
――ユーモアを交えてシビアな話も語ってくれると。
npckcさん:
今ので3つですね。詩と映画と本。あとはやっぱりゲームに戻るんですが、『ペーパーマリオRPG』が好きで。人生で初めて最後までプレイしたゲームだから。そこからゲームの良さを知ってしまって、ゲームを作るようになったかもしれませんね。リメイク版ももうクリアしました。早すぎるんですよ、50時間プレイしてしまったらしくてヤバいと思いました(笑)ちょっと仕事しようと思いました。本当にやる気が出ますね。『ペーパーマリオRPG』はすごくストーリー性のあるゲームなんです。ゲームでも、ゲーム性だけじゃなくてストーリーも重視されるっていう可能性もあることに感動しましたね、子どものころにプレイして。
で、最後にいうとやっぱり『逆転裁判』が一番好きなので。『逆転裁判』がなかったら結構違う人生になったと思います。『逆転裁判』のおかげで日本に来ているし、ゲームも作っているしノベルゲームも作っているし。趣味ですが、今週末は『逆転裁判』のコラボカフェに行くために台湾に行くんです(笑)台北と高雄と2つの都市でやるので両方行きます。『逆転裁判』があるから楽しみが増えていますよ。
――『逆転裁判』シリーズのナンバリングではどれがお好きですか。
npckcさん:
『逆転裁判3』が好きですね。クリエイターの巧舟さんのストーリーが好きなので、『逆転裁判123』が本当に最高で、『大逆転裁判』ももちろん大好きです。ストーリーの展開がすごく上手くて。いつか私もそれくらい逆転が書けるようになりたいと思ってます。こういうミステリーものだと犯人が分かってしまうと面白くないものもあるんですが、『逆転裁判』って最初から犯人が分かっても面白いんですよ。なぜ? 分からない。もう、上手すぎるんですよ。困りますね(笑)それくらい本当に参考になるし、単にファンとして本当に大好きです。
――『逆転裁判』に始まり『逆転裁判』に終わりましたね。ありがとうございました。