マーケ志望でも「営業」配属から。ネスレが“ジョブ型採用”しない理由

ネスレ日本社長・深谷龍彦氏

ネスレ日本の深谷龍彦社長。ネスレ日本の人材育成について聞いた。

撮影: 横山耕太郎

円安や経済成長の面から、就活生からも人気が高まっている外資系企業。なかでもマーケティング職の人気が高いのがネスレ日本などのメーカーだ。

近年では、入社後に希望の職種につけない、いわゆる「配属ガチャ」による若手の離職などが注目されるようになり、新卒でも職種別採用を設ける企業も増えている。

一方で2020年にネスレ日本の社長に就任した深谷龍彦氏は「現場を知らないとマーケティングなんてできない」と話す。

社長就任から4年。ネスレ日本の人材採用や人材育成について、深谷社長に聞いた。

ネスレ…1866年、スイスで創業。188か国でビジネスを展開しており、売上高で世界最大の食品メーカー。1913年に日本上陸、ネスレ日本は1933年に創業した。国内には茨城県、静岡県、兵庫県に製造工場を構える。グループを含む社員数は約2400人。 2010年、高岡浩三氏が、ネスレ日本として初の日本人社長に就任。2020年4月、深谷氏が社長に就任した。

「私も入社して5年は営業担当だった」

ネスレ商品

神戸市のネスレ日本の本社。ネスレ日本の商品が並ぶ。

撮影: 横山耕太郎

──なぜネスレ日本では、「マーケティング職」を希望する新卒採用者であっても、まずは「営業職」に配属するのでしょうか?

マーケティング職を希望していてもいきなり配属になることはほとんどなく、数年は営業に出てもらっています。

僕も実際にそう育ってきました。マーケティングがやりたくてネスレ日本に入ったのですが、最初は営業だったので「なんで?」という気持ちもありました。

でも、営業に出ると商品の流れがわかります。工場で作られた商品が卸業者を通って、スーパーマーケットの物流センターに入って、店頭に来て、消費者が買っていく流れだったり、実際のお金の流れだったり、それを知らないでマーケティングなんかできるわけない、と私は思っています。

私は営業を5年やりましたが、マーケティングをやり始めたときに、結果的に理解するスピードが早かった。

今は価格改定も迫られていますが、1回も現場で商品を売ったことない人間が、どんなプライスを設定できるのか、1回も商品を陳列したことのない人間がどんなPOPを作れるのか、営業担当からしたら信じられないですよね。売ったことも、商品も積んだこともない人に言われても……となってしまう。

「財産はブランドと人」

ネスレ

世界188カ国でビジネス展開するネスレ。

撮影: 横山耕太郎

──他社では部門別採用を拡大する流れもあります。早期離職につながるなどのリスクはないのでしょうか?

今年の新卒採用者は、みんな営業現場に行って活躍しています。我々は採用の段階から「いきなりマーケティング部署というのはほぼない」と説明しています。選考の段階で諦めた子がいるのかはわかりませんが、理解して入社してくれている。

消費者を知るとか、購買者を知るとか、お店の方を知るとかっていうのは、やっぱり僕は少なくともマーケターには必要だと思っています。それが5年必要なのが、1年でいいのかは、議論の余地がもちろんあると思います。

ネスレでは、「財産はブランドと人」だとずっと言い続けています。日本だけじゃなくて、世界で言い続けていることです。終身雇用制の是非は横に置いておいたとしても、ネスレでずっと働きたいと思ってくれる社員が1人でも多い文化であってほしいと思っていますし、公表はしていませんが今でも離職率は相当低いです。

辞められる方も中にはいますが、一度やめて帰ってくる方も多い。

これからはどうやっても日本全体が人手不足になるのは間違いない。会社の魅力度を高めていかないといけない。

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