プロが指南 「これなら安心」大学進学費用捻出法
子どもの大学進学を考えた時、学費をどう工面するか、ということは頭の痛い問題だ。国公立なのか、私立なのか、希望する大学で、その額も大きく異なってくる。近年は各大学が返済不要の給付型奨学金を充実させており、それを活用すれば負担を軽減することもできる。改めて、教育費の問題について考えてみた。【中根正義】
現在、大学進学にかかる費用はどれ位なのだろうか。文部科学省によると、国立大の初年度納付金は入学金28万2000円と授業料53万5800円の計81万7800円が標準額となっている。だが、近年は国立大でも授業料を値上げしているところもあり、東京工業大や一橋大、東京医科歯科大、東京芸術大、千葉大は標準額よりも10万円程度高い。また、公立大の場合は授業料は国立大とほぼ同額だが、入学料は大学がある地域の居住者かそうでないかで大きく異なっている。東京都立大を例にとると、都民であれば14万1000円だが、都外からの入学者だと倍の28万2000円となる。私立大は文系の平均額が約120万円、理系は約150万円、医歯系だと約480万円だ。さらに、大学卒業までにかかる在学費用を見てみると、表の通りで国公立大だと539万3000円、私立大文系だと730万8000円、私立大理系だと826万7000円になる。表にはないが、私立大の医学系だと3000万円超になる場合がある。
安易な教育費支出は「親の老後」を苦しめる
ファイナンシャルプランナー(FP)で株式会社フィンテック執行役員兼法人事業部長の松崎信一郎さんは言う。
「時代の変化が速くなり、年功序列や終身雇用制が崩れていく中で、親自身の将来設計が立てにくくなっています。少子高齢化が進む中で公的年金への信頼も揺らいでいます。そうした中で、子どもの教育資金をどう捻出するかは大きな課題です。おおよその額だけでも知っておけば、資金計画も立てやすいので、早め早めの準備をしておきたいですね」
ここで、次の表を見てほしい。これは日本政策金融公庫が今年3月にまとめた報告書の中から、高校入学から大学卒業までにかける教育費用のうち、高校卒業後の入学先別にみた卒業までに必要な入在学費用だが、4年制大学に子どもを通わせると、国公立大でも748万1000円かかり、私立大理系では1070万4000円と1000万円を超えることが分かる。
松崎さんによれば、これを幼稚園から大学卒業までの計19年でみると、すべて国公立に通わせたとしても1100万円弱、すべて私立で大学は理系に通わせると約2700万円にもなるという。国税庁の調査によると、民間企業で働くサラリーマンの平均年収はおよそ441万円(2018年、平均年齢46.4歳)。教育費の負担が、家計に、いかに重くのしかかるかが分かるだろう。
大学生の3人に1人が活用している奨学金に要注意
このように大学での学費負担は大きく、日本学生支援機構(JASSO)の貸与型奨学金は大学生の約3人に1人が利用している。FPの松崎さんは「注意してほしいのは、貸与型は返済の義務が生じ、社会人になる前に子どもが数百万円の借金を背負うことになることです」と注意を促す。『奨学金まるわかり読本』などの著書がある奨学金アドバイザーの久米忠史さんは「卒業後のライフステージにも影響することだけに、借り入れは慎重に考えたほうがいい」と警告する。
ちなみに、JASSOの貸与型奨学金には無利子の第一種と有利子の第二種がある。第一種は国公立大か、私立大か、自宅からの通学か、自宅外かで違いがあり、2万~6万4000円の範囲で借りられる。貸与の条件として高校2~3年生段階の成績が5段階評価で3.5以上となっているが、低所得者世帯はこの基準を満たさなくても大丈夫だ。そして、第一種の金額では足りない場合、第二種を併用することが可能だ。ただ、こちらは低利ではあるが利子がつく。
今年度から住民税非課税世帯やそれに準じる世帯の受験生を対象に、授業料の減免と返済の必要がない給付型奨学金を柱とした「大学無償化」制度が始まっている。対象は年収が380万円未満の世帯で、家計の状況にもよるが、入学金と授業料などが減免され、国公立大であれば実質自己負担なしで進学できる。給付型奨学金も受給でき、自宅通学者は月々最大で国公立大が2万9200円、私立大は3万8300円、自宅外だと国公立大は6万6700円、私立大だと7万5800円が給付される。生活支援として位置づけられていることから、自宅外生への給付額が手厚くなっている。
来年度分の受け付けは既に終了しているが、申請は大学進学後でも可能なので、入学後に奨学金の担当窓口である学生課などに問い合わせてみたい。なお、給付条件として高校での成績が問われ、評定平均は3.5以上が必要だが、基準に達していなくても面談やリポートなどで高い学習意欲があると判断されれば、給付が認められることも頭に入れておこう。
だが、ここで一つ注意しておきたいことがある。それは、ごく一部の大学・短大が認定外となっていることだ。志望する大学が認定されているかどうかは、事前に確認しておきたい。
ところで、近年、一般入試の前に予約ができ、合格と同時に給付が決まる事前予約型の奨学金を導入する大学が増えている。家計の状況や評定平均値などの条件が整っていれば事前に申請ができるものだ。
各大学が力を入れる事前予約型奨学金が「使える!」ワケ
2009年度にいち早くスタートさせたのが早稲田大の「めざせ!都の西北奨学金」だ。1都3県(東京、埼玉、千葉、神奈川)以外の受験生が対象で採用枠は1200人。家計の条件を満たせば評定平均値は問われず、学部に応じて年45万~70万円が支給される。
慶応大も首都圏(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)以外に住み、同大学への入学を強く希望する受験生向けに「学問のすゝめ奨学金」がある。採用予定人数は550人以上で、奨学金額は年額60万円(医学部は90万円、薬学部は80万円)。入学初年度には入学金相当額(20万円)も給付される。
今年度から「おゝ明治奨学金」をスタートさせた明治大は採用枠が1000人と多い。同大学学生支援事務室の原美岳さんは「対象は1都3県出身者も含みます。授業料年額の2分の1相当額が入学時は減免、2年次以降は本人口座に給付され、JASSOの奨学金と併用もできます」と説明する。
申請資格に学習成績(評定平均値4.0以上)や保護者の収入の上限などがあるが、この奨学金を受給している同大学政治経済学部1年の男子学生は「私は長野県出身で、以前から明治大に入学したいと思っていました。学費のことなどを考えると厳しかったのですが、事前予約ができるということで申し込みました。今年はコロナ禍で、授業の開始が遅れるなど大変ですが、夢だった憧れの大学で学べて良かった」と、満足そうに話す。
同大学学生支援事務室の古市彩さんによると、大学が独自で行っている返還義務のない奨学金は約80制度あり、給付総額は約14億円、採用者数は約4500人にのぼる。全学生のおよそ7人に1人が受給していることになる。その種類は修学に必要な経費を確保する経済支援型と成績優秀者に対する学業奨励型、家計急変・困窮者への支援を目的とした家計急変対応型の三つのタイプだ。古市さんは「最も規模の大きい明治大学給費奨学金(未来サポーター給費奨学金)の採用者は1440人以内と規模も大きく採用率も70%と高いのでぜひ活用してほしいと思います」とPRする。
明治大の例を見ても分かるように、現在、多くの大学が給付型奨学金を充実させている。コロナ禍で家計が急変した家庭が増えており、今後、奨学金を必要とする学生が増えることが予想されている。それだけに、前出の奨学金アドバイザー、久米さんは「奨学金は各大学だけでなく企業や自治体なども設けており、進路指導教諭や志望大学の窓口に問い合わせるなど、できることなら事前に情報収集をしてほしい」とアドバイスする。JASSOでは、ホームページでさまざまな奨学金の情報を紹介している。しっかり情報収集をして希望する大学へ進学する夢をかなえてほしい。