2021年を振り返る個人GOTY:まきちゃん、クィア・ゲーム・パワーの高まり
厳しい世界、優しいゲームたち
2021年はわたしにとってクィアの年であった。東京オリンピックをはじめとした様々な出来事と、それらによって浮かび上がってきた人々の性的マイノリティへの関心と無関心は強く記憶に残っている。今年遊んだゲームにマイノリティを題材にしたものが多かったのは、そういう年だったからというのもあるのかもしれない。そんな年を過ごしたわたしの個人的ゲームオブザイヤーはこんな感じである。
- 『Chicory : A Colorful Tale』
- 『Marvel’s Guardians of the Galaxy』(紹介記事)
- 『Boomerang X』(レビュー)
- 『Blaseball』
- 『A Year of Springs』
- 『Paratopic』
- 『Forza Horizon 5』
- 『Next Space Rebels』
- 『Toem』(レビュー)
- 『The Ascent』(レビュー)
『A Year of Springs』は旧作トリロジー&移植だが、女性/トランス/レズビアンという社会から排除されている人間の声を届けるゲームということで評価する価値は大いにあると感じた。このシリーズが優れているのは「トランス女性の説明書」みたいな、教則本のような感じがないところ。トリロジーの2作目『last day of spring』のクライマックスのシーンは近年触ったロマンス・フィクションのなかで最も心動かされたものだった。そして3作目の題材はちょっとしたサプライズだった。それが何かはここでは書かないが、これも社会では無意識に排除されている属性である。
ネビュラ賞とヒューゴー賞にノミネートされた(『Hades』おめでとう)、ホラー野球選挙テキストオンラインゲーム『Blaseball』は、スポーツ競技というトランスフォビアを内包するテーマを扱っているにも関わらず、スゴくクィアなゲームである。野球(のような競技)のゲームだから、選手たちがチームに分かれてずっと試合をやっているのだが、選手たちはジェンダーや種族ごちゃごちゃになってプレイしているのである。全てのプレイヤーが自分だけのヒーロー選手を見つけられるゲームなのだ。
『Forza Horizon 5』の「ようこそメキシコへ!おまえが何者でも俺たちは歓迎するぜ!」と言われているようなオープニングと生まれの肉体で縛らないキャラメイクもすばらしい。そのぶん日本語字幕での女言葉(わよ・わね)がすごく残念なのだが……。
ランキングには載せてないが、レビューを書いた『Boyfriend Dungeon』はネアカで爽やかな感じが好みだったし、クリスティーン・ラブの『Get In The Car, Loser!』も「頑張れ女の子!」というエールを感じる、ヤングアダルト向けグラフィック・ノベルのような、爽やかで力強いタイトルだ(まだ序盤しかやってないけど)。
クィア・ゲームが強かったが、メンタルヘルスやケアに関してのゲームもスゴくよかった。1位の『Chicory:A Colorful Tale』は年ベストというかオールタイムベストである。これはプレッシャーに押しつぶされたクリエイターのメンタルヘルスとそのケアを扱った作品である。シームレスな塗り絵システムがゲームプレイとストーリーテリングの両方において完全に機能していて、始まりから終わりまで楽しく感動的な時間を過ごすことができた。ビデオゲームというのはこういう感動を与えられるんだぞ、という最高の例だと思う。これは日本向けのリリースがすでに予告されているので、またそのときに詳しくレビューか何かでしっかり紹介したい。
『Marvel's Guardians of the Galaxy』も途切れることのないチームとの会話や超アガる80’sソングのミックステープと共に喪失のケアを描いたゲームだった。コミックシリーズや映画シリーズから完全に独立した、シングルプレイゲームの恒星である。
上に挙げたような物語重視のタイトルを遊んでいて「やっぱりこういうのが好きだな~。ケア……思いやり……ぬくもり……」とノンビリしていたわたしの心に再びアクションの火を灯してくれたのが『Boomerang X』。久しぶりに「ウオー!俺はアクションゲーマーだ!!!」という気持ちになってしまった。『The Ascent』も荒々しいが鋭く真っ直ぐなトップダウンシューターで、「サイバーパンクのあの感じ」に収まらないリッチなビジュアルがたまらない。アクションじゃないがカットバックとローポリのリンチ映画ライクな『Paratpic』や、DIYロケットを飛ばすロケット・パンクな『Next Space Rebels』も気に入った。
あと実は、今年そんなゲームやってないんだよね。今年始めくらいに海外マンガを洋書で読み始めて、それが楽しくてそればっかり掘ってたのだ。「アメコミ」なんて呼ばれているが、そんな軽い言葉は不適切だと感じるくらいに、今のコミックシーンは深く楽しいものになっている。扱っている題材は今日のビデオゲームと重なる部分もあるし、コミック作家がゲームに参加している例のもいくつか見る。いまのビデオゲームのように、これを知らずにエンタメシーンの最新は語れないぜ、と言い切ってしまえるものだと思う。なにかに絡めてちゃんと紹介できるといいなぁ。『The Many Deaths of Laila Starr』おもしろいよ。
2021年は色々なゲームを楽しんだが、同時に「ビデオゲームの書き手が少ない!」というのをすごく実感した年でもあった。ゲームは多くのカルチャーの交差点であり、作り手もプレイヤーも多種多様である。なのになぜ男性のゲーム(専門)ファンばかりゲームレビューを書いているのだ?ゲームレビューにはもっと多くの言葉が必要だ。2022年はもっと色々な書き手による多様な視点からの文章を読みたいものである。