永字八法
漢字「永」の字の点画には、書の基本となる8種の技法が含まれているということ、またその技法
永字八法 |
永字八法(えいじはっぽう、えいじはちほう)とは、漢字の「永」の字には、書に必要な技法8種が全て含まれているという事を表した言葉。
概要
編集側(ソク、点)、勒(ロク、横画)、努(ド、縦画)、趯(テキ、はね)、策(サク、右上がりの横画)、掠(リャク、左はらい)、啄(タク、短い左はらい)、磔(タク、右はらい)の八法。
楷書の成立と紀元を同じくすると言われる。その由来には唐の張懐瓘『玉堂禁経』にある「大凡筆法、点画八体は『永』字に備わる」「八法は隷字の始めに起こり、後漢の崔子玉より、鍾・王を歴て以下、伝授し用うる所の八体は万字に該す」といった記述から崔瑗(字は子玉)・鍾繇・王羲之説が唱えられてきた。また、宋代の文献には智永説(宋・陳思『書苑菁華』)、張旭説(宋・朱長文『墨池編』)などが見られる。
なお、永字八法に含まれない書法として、戈法・戈脚(カ、右へ斜めに引きおろした線をはねあげる)が挙げられる。
八法の詳細
編集
側(ソク、cè)
編集図の1。
- 李溥光『永字八法解』 - 「怪石」
- 筆画の「点」
- 筆と筆先の側面を使って抉るように書くので「側」と言う。
勒(ロク、lè)
編集図の2。
- 李溥光『永字八法解』 - 「玉案」
- 筆画の「横」
- 「勒」は馬の頭に掛けて馬を御する革ひも。勝手に動かないように制御する意味で、馬の革紐を引き締めるように書く。
努(ド、nǔ)
編集図の3。
- 李溥光『永字八法解』 - 「鉄柱」
- 筆画の「竪」(すなわち縦画)
- 「努」の脚(漢字の下半分)を「弓」とした「弩」と書く場合もある。「石弓」のこと。石弓で石を遠くに放つ前のように、縦画の中央部が左に反るように書く。
趯(テキ、tī)
編集図の4。
- 李溥光『永字八法解』 - 「蟹爪」
- 筆画の「鉤」(縦画あるいは横画からの「はね」)
- 旁(つくり;漢字の右半分)は「羽」と「隹」(ふるとり)から成り、高く抜きんでた雉(キジ)の尾。偏の「走」と合わさって、高く抜きんでるように躍り上がること。
策(サク、cè)
編集図の5。
- 李溥光『永字八法解』 - 「虎牙」
- 筆画の「提」(右斜め上に向かう「はね」)。あるいは「横」が右上がりになったもの。
- 脚(あし;漢字の下半分)は「セキ」で「とげの出た枝」を描いた象形文字。「刺す」の偏も同じ意味。「竹」の冠と合わせて、ぎざぎざとがっている鞭(ムチ)。鞭で「ビシッ」と叩くように書く。
掠(リャク、lüè)
編集図の6。
- 李溥光『永字八法解』 - 「犀角」
- 筆画の「撇」が長く現されたもの。「左はらい」のこと。あるいは「彎」(左そり)。
- 「掠」は「かすめる」こと。女性の長い髪を梳る(すく、くしけずる)ようにゆったりと左に払う。
啄(タク、zhuó)
編集図の7。
- 李溥光『永字八法解』 - 「鳥啄」
- 筆画の「撇」が短く現されたもの。
- 「啄」は「ついばむ」ことで、啄木鳥(キツツキ)が木を叩く姿を示す。
磔(タク、zhé)
編集図の8。
- 李溥光『永字八法解』 - 「金刀」
- 筆画の「捺」。「右はらい」のこと。
- 「磔」は「はりつけ」のことだが、「引き裂いて内臓を開く」意味もある。左への払い(掠)と異なり、肉を引き裂いて、金刀が骨まで達するように、力を入れてじっくりと右に払い、特に払い終わりは「掠」よりも力を入れて三角形を作る。